2015年06月05日

となりの山劇 No.142 怪しい業界用語辞典 その1

となりの山劇シリーズ


プロダクション間を駆け巡った怪文書の正体とは


 以下に紹介する文章は、今から数十年程前に我々の業界を嵐のように駆け巡った『怪文書』である。その怪文書はまさに様々な所からFAXで流通していて、現在今手に取って見ているものには名古屋市内のテレビ放送会社の名前が読み取ることができるが、ヘッダ部分には判読にくいが別の社名も見えるので、やはり別の場所から流通して来たのではないかと推測できる。既

 その当時、怪文書の出本は『電愽』辺りの映像関係のディレクターではないかというような噂も数多く飛び交ったが、結局のところ何も分かっていない。。

 今改めて読み直してみても全然古くなっていないその内容的は、むしろその事実関係と照らし合わせてみれば、まさにその通りであり、現在でも充分に通用すると改めて認識する事ができる。著作関係からするとかなり怪しいのだが、私のファイルの中に埋もれたままにしておくのはとても惜しい。とりあえず『読み人知らず』という解釈で公開してみようと思い立ったのである。


以下はその引用である。できる限りオリジナルに近い紙面を構成したいが、やむを得ず都合上オリジナルとは違う改行をする。しかし、大局的内容には問題ないとする勝手な解釈を採択しようと思う。



【逆に言うと】

■意味

本来は、相手の発言に対して、自分の意見が正反対のときに用いるのが筋。
でも、まともに正面切って「オメーの言っていることは全然違うぜ」と言うと角が立つので≪潤滑油的≫な意味を持つ。

■事例

「今回のキャンペーンのタレントは男で行きたいな」
「逆に言うと、女でもいいんじゃないかな」



【基本的には】

■意味

本来は、本当に基本的な話をする時に用いるのが筋。
でも、業界では「基本もクソもあるかよ。これが全てだぜ」という強い意思を持って話すときに使われる。

■事例

「どのプランがお勧めなの?」
「基本的には、A案で行きたいと思います」



【とりあえずラフだけど】

■意味

本来は、まだまだ十分検討されていないが、現時点での≪粗い試案≫に対する言い訳の時に用いるのが筋。
でも、ラフと言いながら「これで行くぜ」と言う強気で使う場合(この場合は絵コンテ・カンプと進んでもラフ案から全然変わらない事が多い)と、「考える時間がなかったんだから、これしかできねえよ」という捨てぜりふ的に使う場合がある。

■事例

強気編
「来週がプレゼンだけど、何かいいのできた?」
「とりあえずラフだけど、ここらへんの案で考えているんだ。結構面白いって周りの女の子たちも言ってくれてる訳よ」

捨てぜりふ編
「急ぎで悪かったんだけど、どう?」
「とりあえずラフだけど、これは本当にラフだからね!こういう仕事ってやりたくないのよ。やっつけになっちゃうからさあ」



【聞いてません】

■意味

本来は、連絡事項や依頼を本当に≪聞いていない≫時に用いるのが筋。
でも、業界では「自分のド忘れ」を悟られないために、開き直って使う場合が多い。20%くらいは≪本当に聞いていない≫時があるが、そういう時は鬼の首を取ったように「高圧的な態度」に出るケースが多い。

■事例

ド忘れ編
「明日の企画打ち合わせだけどさ、だいたい企画は固まった?」
「聞いてません、何の話?いつ決まったのよ、そんな話。」

鬼首編
「6月10日の明日の10段の件だけどさ、大丈夫だよね?」
「聞いてません、何それ?ちょっと待てよ。いきなりじゃん、そんな話。いまさらとれる訳ないじゃん。~以下ウダウダ・・・」



【変な話】

■意味

本来は、本当に≪ヘンなハナシ≫をする時に用いるのが筋。
でも、何でもないのに意味もなく『接頭語』として用いるときが多い。

■事例

「CXの番組の空枠状況どう?ウチは入れそうかな?」
「ヘンな話、今はすごく混んでてさ、結構まいっちゃってる訳」



【来週アタマに】

■意味

本来は、≪アタマ≫というからには月曜日の事を指すはず。
でも、業界では月曜日になったためしはない。だいたい火曜日から水曜日になるケースが多い。ひどい時は、金曜日ぐらいになる時もある。この用語は主に木曜日頃に「今週はもうやりたくないから、来週に先送りしよう」という心理状態に陥った時に、最もよく使われる。

■事例

「新商品のコンセプトワークの打ち合わせ、いつやる?」
「来週アタマにしようよ。今週は、イロイロたてこんじゃってさ、時間が全然ないのよ」



【基本的にはOK】

■意味

本来は、ほとんど何の問題もなくOKな時に用いるのが筋。
でも、業界では「全然OKじゃない。むしろ、やばい状況」でも平気で使う時が多いので、全くあてにならない。

■事例

「CFのスポンサー試写、どうだった?」
「基本的にはOK。でも2~3ちょっとしたリクエストがあって・・・」
「どんなこと?」
「まぁ、メチャやばい訳でもないんですけど。同録でとったタレントのコメントが気に入らない、って言い出して・・・まぁ、最悪撮り直しかなーみたいな・・・」



【最悪】

■意味

本来は、本当に『最悪=どうにもならない状況』の時に使用するのが筋。
でも、業界では『最悪=普通の状況』として使うので、状況を把握するのには何の役にもたたない。また、『最悪』と言った時点で物事は全てその状況で進んでいくケースが多い。

■事例

「このコピーじゃ、ちょっと辛いんじゃないかな。別案無いの?」
「最悪これでいこうよ。悪くないよ、これ」



【じゃ、そういうことで】

■意味

本来は、その会議に出席したメンバー全員の合意がなされた時に用いるのが筋。
でも、業界では長時間の会議に嫌気がさして、ケツを切り上げるときに使われるので、「結論として何が決まったのか、誰も分からない」場合が多い。

■事例

「まぁ、いろいろ意見もでたし、今日はフレームづくりだから、こんなところでいいんじゃない? 次は来週の木曜日にでも、もう1回ももうよ」
「じゃ、そういうことで。どうもお疲れさまでした」



【いいか悪いか別にして】

■意味

本来は、「良い」とか「悪い」とかの次元ではなく、物事の本質に対してこうあるべき、という正論を述べる時に用いるのが筋。
でも、業界では「自分の意見に全然、自信がない」時に、相手をだまくらかすために使われる。

■事例

「じゃあ、メディアプランはテレビが中心、ということで・・・」
「いいか悪いか別にして、テレビやめちゃわない?なんかさあ~、電波媒体っつう雰囲気じゃないんだよね。」



【よろしくどうぞ】

■意味

本来は、会話の終わりに「以上の件、よろしくお願いします」という言葉で相手に伝えるのが筋。
でも、業界では「よろしく」「どうぞ」というバカ丁寧な言葉を、意味もなく2度繰り返すケースが多い。一見、非常に丁寧なようで、実は気持ちが全くこもっていないので、騙されてはいけない。

■事例

「じゃあ、来週の金曜日に伺うということで、よろしくどうぞ。」



【○○の意見には賛成。ただ、ひとつ違うのは】

■意味

本来は、賛成しているのだから、もし付け加えるとしても本当に1点だけの時に用いるのが筋。
でも、ほとんどの場合は「ひとつ違う」が大事で、実は「全部違う」という、とんでもないコトバ。「賛成なんだな」なんとホッとしていると足元をすくわれて愕然とするので要注意。

■事例

「というわけで、カラスは白、だと思いますが・・・・・」
「僕もその意見には賛成。ただ、ひとつ違うのはカラスは黒だ、って言う点」



【白紙の状態】

■意味

本来は「何も決まっていない」即ち、「これから皆さんの知恵を借りて考えていきたい」という『謙虚な』気持を伝える時に用いるのが筋。
でも、業界では、特に得意先が「そんなもん、考えてるわきゃね~だろ。せっつくんじゃね~よ、本当に。可愛くね~な。」という『開き直り』の時によく使われる。それを聞いた『営業マン』が、よせばいいのに社内に帰ってきてから「例の件は、白紙の状態だ~」と胸を張って報告し、スタッフから「なに威張ってんだ、バカ」とひんしゅくを買うケースがよくある。

■事例

「秋以降の宣伝計画は決まりましたでしょうか・・・へへへ」
「白紙の状態だ。まあ、俺なりの思惑はあるけどな。まだ、言う段階じゃない」



【キャッチボール】

■意味

本来は、野球用語で「ピッチャーとキャッチャーが球を投げ合い、徐々に肩の調整をする」時に用いられるのが筋。
でも、業界では「得意先VS代理店」「営業VSスタッフ」間の時間ばかりかかって、意味のない『意見のやり取り』をするときに使う。そりゃあ、何度かやり取りするうちに、少しは前進するが本来ならば、もっと計画性と具体案をお互いに持っていれば済む話ではある。

■事例

「コンセプトがいまいち弱いよな~。もう少しキチッとなんない?」
「まあ、今日のところはこのくらいにして、また来週にでもキャッチボールしながら、固めていくということで・・・」



【フレームづくり】

■意味

本来は、『基本骨子』をしっかりと固める時に用いるのが筋。
でも、業界では「なんとなく、皆の思惑を大雑把に出し合う」時に使う。事前に「今日の目的はフレームづくりだから」と、分かっている場合はあまりなく、ほとんどの場合は『ダラダラと長い会話をしてしまい何も決まらなかった』時に、ディレクターが「言い訳」+「皆を安心させるために」使う。

■事例

「コンセプトがいまいち弱いよな~。もう少しキチッとなんない?」
「まあ、今日のところはこのくらいにして、また来週にでもキャッチボールしながら、固めていくということで・・・」



【あとは金の問題だけ】

■意味

本来は、他の全ての問題がクリアになって、最後に『そんなに大きな問題』ではないが『金』の件だけがクリアになっていない時に用いるのが筋。
でも、業界で『金』以上に重要な問題がある訳がなく、この言葉は単に、「問題の先送り」にしか過ぎないにも拘わらず、皆は「そうか、あとは金の問題だけか」と誤解してしまう。
#類義語=「あとは時間の問題だけ」

■事例

「いい企画じゃん、これ。最高に面白いよ。やろうやろう」
「でしょ、是非やりたいんだ。まぁ、あとは金の問題だけ、なんだけどね。」
「金かぁ~。そうなんだよな、予算的に辛いわな~」



【捕まらない】

■意味

本来は、どうしても連絡を取りたいのだが八方手を尽くしても、相手に連絡がつかない時に用いるのが筋。
でも、業界では『連絡すら一度も取らなかった』のに「いない相手が悪い」という『開き直り』でよく使われる。

■事例

「イラストレーターの人と連絡取れた?つかまえなきゃヤバイよ」
「それがね~、全然捕まらないんですよ。こっちも、まいっちゃてさぁ」



【広告っぽくしたくない】

■意味

本来は、『読んで字の如し=広告ではない』時に用いるのが筋。
でも、広告業界で『広告じゃないもの』を作ることはあり得ない。にも拘わらず、制作者が「ダセーのは、やりたくね~よ」という時に意味不明で使う
#反対語=「表現っぽくしたい」

■事例

「今回の商品は、堅いいうか難しいのは確かだね」
「やるんだったら、広告っぽくしたいくないなぁ~。表現っぽくしたいなぁ~」



後編に続く。



【怪しい業界用語辞典の関連記事】
<となりの山劇 No.142 怪しい業界用語辞典 その1>
<となりの山劇 No.143 怪しい業界用語辞典 その2>



>>> 山劇/となりの山劇 インデックス <<<



posted by サンタ at 14:38| Comment(0) | 本家山劇/となりの山劇 | 更新情報をチェックする