となりの山劇シリーズ |
怪しい業界用語はマスターできたかな
前回からの続編です。
【て・に・を・は、だけ直す】
■意味
本来は、本当に『助詞』の『て・に・を・は』だけを直す時に用いるのが筋。でも、業界では「だけ」と「予算内」で収まった試しはなく、ひどい時には『キャッチコピー』まで直される場合も多いので油断できない言葉である。
■事例
「明日が入稿ですんで、もうここまできたら『て・に・を・は』だけ直すということで、宣伝課長にお伝えください。」
「見るだけ見ておくけど、課長は言葉にうるさいから、責任は持てないぜ」
【もちろん、やらないって訳じゃなくて】
■意味
本来は、「ちゃんと、やります」という意思表示の時に用いるのが筋。
でも、業界では『得意先の無理課題』に対して『ささやかな抵抗』として使う場合がほとんど。しかし、最後は『やらないと』出入り禁止になる。
■事例
「来週までに3方向以上の企画を持ってきてよ」
「来週までですか?そりゃあ、めちゃキツイですよ」
「できないって言うの?」
「もちろんやらないって訳じゃなくて・・・。ただ、いきなりなんで。」
「じゃあ、やってよ。でも、手抜きはだめだぜ」
「だから、もちろん、やらないって訳じゃなくて、やるんですけど・・・来週というのはチョッと・・・・」
「だめ!来週だ!絶対だからね。」
【宿題】
■意味
本来は、小学校で児童に対して『課す事項』を指すときに用いるのが筋。
でも、業界では『得意先から与えられた課題』を軽いノリで表現する時に使うのだが、その内容は決して軽くはない。また、本来の『宿題』ならば、やらなくても、せいぜい廊下に立たされるのが関のヤマだが、この場合の『宿題』はやらないと『とんでもないこと』になるので注意が必要だ。
■事例
「じゃあ、キャッチコピーはやり直しだからね」
「はあ~。んじゃ、宿題ということで、持ち帰りまして、再度検討します」
【アウトプットイメージが見えない】
■意味
本来は、『最終的な方向性・結論が、現時点で不安定』という状態を表すときに用いるのが筋。
でも、業界では「オメーの言ってることが、サッパリ分からない。一体全体、何やりてえんだよ?」という、相手に対す『不信感』を表明する時に使う。こう言われた方は「何?見えない?見えないんじゃなくて、テメーこそ何も考えてないんじゃねえかよ。いいかげんにしろ、タコ」を心の中で言い返すが、決して言葉にはしない。
■事例
「今度の消費者調査なんだけど、アウトプットイメージが見えないよね。もっとテーマを絞り込んでから発注して欲しいワケ」
「逆に言うと、どこらへんのイメージがつかめないの?」
【腹をくくる】
■意味
本来は、本当に『不退転の決意で臨む』時に用いるのが筋。
でも、業界では『単なる気合い入れ』として用いられる。特にダメな営業ほどこの言葉を連発するので、スタッフはほとんど聞き流している。
■事例
「営業さん、制作のお薦めはA案だからね。得意先にキチッと伝えてよ!」
「俺も営業として、腹をくくるぜ。ビシッと仕切ってくるからよ」
【5分間だけ時間ある?】
■意味
本来は、本当に5分だけ相手と話をしたい時に用いるのが筋。
でも、業界では「5分で済んだ」試しはなく、たいていの場合延々と捕まってどうでもいいような話を聞かされるハメに陥るので、このセリフがでると本能的に逃げるようになる。
■事例
「お~、いいところで会ったよ。探してたんだ。5分間だけ時間ある?」
【全然時間ない】
■意味
本来は、寝る時間も含めて全く時間がない時に用いるのが筋。
でも、「暇な奴は仕事のできない奴」という怪しい慣習がある業界では、暇人と思われるのが嫌で、99%の人間が使う言葉。こういう奴に限って、毎晩ディスコに行ったり、女とシケ込んだりしている時間はタップリある。このセリフを吐く時は必ず『システムダイアリー』をペラペラめくりながら、眉間にシワを寄せて「まいったなー」と独り言を言う。そのスケジュールをのぞいて、よ~く見ると「イタメシ屋に予約のTEL入れる」「小夜子誕生日」等といった仕事とは全く関係のない事で埋まっているケースが多い。
■事例
「次の打ち合わせ、来週やりたいんだけど時間ある?」
「全然時間ない。今メチャ忙しくてさあ~参ってるワケよ。」
【って言うか~】
■意味
本来は、相手の意見に対して「そういうことではなく、むしろこうだと思う」という『否定語』として用いるのが筋。
でも、業界では「お互いに傷をなめあう」習慣があるので、モロには否定しないでこういう言い方をする。ひどい奴になると、相手の発言に対して全てこのセリフを吐くので「お前は何様のつもりだ!」と心の中で憤る時がある。
■事例
「じゃあ、ラジオはAM局中心で考えるということで・・・」
「って言うか~、FM局みたいなもんでもいいんじゃない?」
【仁義をきる】
■意味
本来は、仁侠道の世界で、自分の身分を名乗るときに用いるのが筋。
でも、変な所でカッコつける業界では『単に話を通しておく時』に使うので、知らない人が聞くと「年中、仁義ばかりきってる変な世界」と誤解する。
■事例
「1制のコピーライターを一人、この作業に加えようと思うんですけど」
「よっしゃ。局長には俺から仁義をきるからよ、任せとけ」
【補足すると】
■意味
本来は、相手の言った内容に対して『簡単な補足』をする時に用いるのが筋。
でも、しゃべりたがりが多い業界の人間の間では、『補足』と言いながら実は全部言い直す事がよく有り、会議が長引くので、この一言が出たら要注意。
■事例
「今の説明に対して何かある?」
「補足すると、まずキャンペーンの企画意図はさ~(以下ダラダラ)
【仮押さえ】
■意味
本来は、『確定ではないが、確度が高いもの』に対して用いるのが筋。
でも、業界では「とりあえず感覚」で使うので確度の高さを知ることは出来ない。特に『媒体スペース』『人のスケジュール』に関してこの言葉がよく使われるが、いつになったら『本当の押さえ』になるのか、発注した本人もわからないため、必ず「言った、言わない」「頼んだじゃん、聞いてない」といった不毛のやりとりが、あちこちで見受けられる。
■事例
「8月23日売りの『JJ』4C1P、仮押さえしといてよ」
「分かった。仮押さえね?仮押さえだったら大丈夫だと思うよ」
【とりあえず走りながら考えよう】
■意味
本来は、陸上選手が走りながら何かを考える時に用いるのが筋。
でも、業界では陸上選手とは何も関係なく「何も考えていないが、すぐにやらないと間に合わないので、いきあたりばったりで作業する」時に使う言葉。最初から誰も何も考えていないので、時間ばかり経過し何もまとまらない時が多い。
■事例
「例のイベントの企画だけどさ~、来週プレゼンなんだよね。どうする?」
「とりあえず走りながら考えようよ、基本的には、あとは成り行きで」
【担当者レベルではOK】
■意味
本来は、得意先の担当者は完全に了解したという時に用いるのが筋。
でも、業界では『単なる気休め』に過ぎず、結局は何もOKになっていないケースがほとんど。この言葉を信じて作業を進めていると、悲劇の大逆転劇が起きた場合「OKって言ったじゃないかよ!」「いや、あれはあくまで担当者レベルの話だから・・・」という骨肉の争いが生じる。
■事例
「プレゼンの感触はどう?」
「う~ん、担当者レベルではOKなんだけど・・・上の方が、ちょっとね」
【ターゲットは若い女の子】
■意味
本来は、当該商品の訴求対象が『若い女の子』である時に用いるのが筋。
でも、業界では『あらゆる商品の約70%』が若い女の子狙いであるため、新鮮味の無いコトバになってしまっている。狙われた『若い女の子』もいい迷惑で、「私たち、そんなにお金無いわよ~」という声が巷に溢れている。
■事例
「この商品のターゲットは若い女の子に絞りましょう」
「そうだよね、やっぱ若い女の子だよね」
【分かる分かる】
■意味
本来は、本当に相手の言ったことを理解したときに用いるのが筋。
でも、『知ったかぶり大好き』な業界人は「自分だけ取り残されるのが嫌」で全然分からなくても、この言葉を使う。こう言われたからといって、自分の意見が皆に理解されたと思ったら大きな間違いである。
■事例
「未だ文章に出来る段階ではなくて、頭の中にしかないんだけど・・・」
「うん、分かる分かる」
【休み明けでいいから】
■意味
本来は、月曜日に『来週でいいから』と言う時に用いるの筋。
でも、業界では『金曜日の夕方』に得意先からTELが入り言われる場合がほとんど。これは、よ~く考えると『土日でやれ=休んでんじゃねぇぞ』という事なのである。もっとヒドイのは12月29日に「年明けでいいから」というオーダーがある。これは『正月が休めない』という事なので、さすがに代理店も「そこを何とか1月半ばくらいまで延ばしてもらえませんでしょうか?・・・」と粘るが、延びてもせいぜい2~3日なので1月10日位で手を打つケースが多い。
■事例
「グラフィック祭はラフでいいから、急いで出してよ」
「今日が金曜日ですから、来週の後半でいいっすよね?」
「ダメ!休み明けでいいから。本当にラフで構わないから」
【確認します】
■意味
本来は、その場で初めて言われた事に対して用いるのが筋。
でも、業界では百万回言われた事でも、全然確認していない場合が多いのでほとんど毎日のように、このコトバがあちこちで聴かれる。
■事例
「先週、頼んでいたタレントの契約料の件だけど、調べてくれた?」
「アッ・・・・・。帰りましたら早急に確認します」
【ほとんど気にならない】
■意味
本来は、本来は、非常に些細な事なので『99%気にならない』時に用いるのが筋。
でも、業界では『単なる傷のなめあい』にしか過ぎず、本当はメチャ気になるのだが、それを言い出すと『大変な事態』になるのでよく使う。この言葉を言う人が多ければ多いほど、事態は深刻である。
■事例
「写真のあがりが、ちょっと甘くってさ~。どう?気になる?」
「ぜ~んぜ~ん。ちょっとアレだけど、ほとんど気にならないよ。お前は?」
「僕も、最初はちょっとだけ引っ掛かったけど、ほとんど気になりません」
いかがでした?
このような世界は、実在します。
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○ <となりの山劇 No.142 怪しい業界用語辞典 その1>
○ <となりの山劇 No.143 怪しい業界用語辞典 その2>
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