となりの山劇シリーズ |
その話は突然降って湧いてきた
実は現在、市販されている某雑誌に連載を持っている。今月末発売の号で第6回になる。東海3県で公称6万部発行されているとされるその雑誌の名前は今回勘弁して欲しい。とてもとても人様の前で言える名前ではない。
そもそもこの仕事の始まりはこうだ。ある日会社で仕事中に、友人から電話が掛かってきた。
「お~い、俺だ。今電話してい~か?」
「久し振りだな~、いーぞ~。元気か~。」
「実はな~、お前に頼みたい事があるんだけどな~。」
「頼みって何さ。」
「電話では話しにくいからさ、今日飲みに行こっか~。」
「んじゃ、いつものとこで。8時頃にはいくわ。」
「それならその時間に行って待ってるから。んじゃ。」
そう言って電話が切れた。今回の物語はこうして静かに始まったのだった。その時はそれなりに忙しかったから、時間ぎりぎり迄仕事をしていて、それで急いで待ち合わせの場所に行ったから、何か用事があるという事なんてスッコーんと頭の中から抜け落ちてしまっていて、今日はどんな酒を飲んでやろうかという事しか頭に無かった。
名古屋市栄のナディアパーク近くにあるいつもの店は2階にあり、外に面した階段を上がった所にある入り口扉を開けて中に入るなり先に来ていた友人の声がした。
「あっ、来た来た。こっちだ。」
「待った~?」
「いや、俺も今来たところ。」
「とりあえず何にする?」
「今、ボトル何入ってるの?」
「え~と。確かマッカランの12年。」
「オッケー、いいじゃん。それ行こう。まずはロックで、後から
水割りにして。つまみはチーズの盛り合わせで。」
友人はこの店を仕事の打ち合わせにも使用しているので、一応はボトルキープはしてあるものの、実は殆ど下戸に近いので、いつも僕達に飲まれてしまう。
「ところで今回は何の用事だい?」
「実はさ~、お前に原稿を頼みたいんだ。」
「原稿って、何の原稿を書くのさ。」
「テレビ電話ってやつの体験談を書いて欲しいんだけど。」
「何それ?」
「こういうやつなんだけど。」
そう言って見せてくれた資料は、風俗関係の雑誌のあるページ。その広告ページの店名は、遠い昔に仕事してた頃に広告を作った事がある名前だったのですぐにわかった。
「その店、テレクラじゃん。」
「そーそー。」
「んじゃ、そのテレビ電話ってやつもテレクラなわけ?」
「まー、そうなんだけど、ちょっと違う。」
「でも、テレクラの体験談なんて、自分でやればいいじゃん。」
「でも俺、文章書けないし。それに、今回はちょっと企画があってさ。」
「俺だってプロじゃないし、素人のようなもんだぜ。」
話はこうだ。テレクラの店に最近普及してきた『テレビ電話』の体験レポートを書いて欲しいという事。ただし、実際に自分で『テレビ電話』を体験取材して欲しいという。それで、実際にあった取材体験の記事を広告として掲載する。
このように、広告なのに本文のように見せかけて実は宣伝だという広告の事を、業界では一般的に『記事稿』と呼ばれている。その記事稿の趣旨として今回は特に『ビギナー客』としての体験記を記事にして、『ビギナーでも安心』という紙面構成にしたいという。
何故そんな企画なのかと言うと、普通、この世界を知っている常連さんという人達は、既にシステムを知り尽くしているので、今更広告は不要。
だから今回はまだこういった店に興味はあるけれど出入りした事が無い人達や、数回行った事があるがどの店がいいのかよく判らない。という人達を対象にしたい。ぶっちゃけて言うと、新規開拓をしたいと言う訳だ。
その企画をクライアント(店側)に持ち込んで承認されてからメンツの人選をしたのか、もしくはメンツの顔ぶれを見て企画を考えたのかは知らないが、その結果、今回の話が僕のところへ回って来たのであった。
「そーいう話で僕のとこに電話した訳?」
「だって、テレクラ行った事ある?」
「客としてはない。」
「だろー。適任じゃん。」
「大きなお世話だ。」
今回の話は、仕事とは言ってもこれは完璧なバイト。大体原稿用紙で7枚程度書いてくれればいい。ここまで話を聞いてしまっては、もう断れない。
「わかった。もう何が何でもやらせるつもりなんだろ。」
「それで、急なんだけど、今週行けっかな~。」
「え~。今週? 今日は火曜だから、あと3日じゃん。」
「会社が終わってからでいいからさ。」
このようないきさつで、その週の金曜日にテレクラの店に行く事になった。もちろん客として行くのは初めてである。とりあえず今回は『やらせ』は無しという事なのだが、段取りが
あるというので時間を指定し、オマケに当日は会社の近くまで迎えに来てくれるという。
いったいどうなることやら。
【怪しいお仕事の関連記事】
○ <となりの山劇 No.131 アダルトなお仕事>
○ <となりの山劇 No.132 怪しいお仕事>
○ <となりの山劇 No.133 むふふなお仕事>
○ <となりの山劇 No.134 桃色印のお仕事 その1> ←今ココ
○ <となりの山劇 No.135 桃色印のお仕事 その2>
○ <となりの山劇 No.136 桃色印のお仕事 その3>
○ <となりの山劇 No.137 桃色印のお仕事 その4>
○ <となりの山劇 No.138 桃色印のお仕事 その5>
○ <となりの山劇 No.139 桃色印のお仕事 その6>
○ <となりの山劇 No.140 桃色印のお仕事 その7>
○ <となりの山劇 No.141 桃色印のお仕事 その8>
>>> 山劇/となりの山劇 インデックス <<< |
【関連する記事】
- 山劇 No.125 クックパッドの新サービス「Holiday」について
- となりの山劇 No.143 怪しい業界用語辞典 その2
- となりの山劇 No.142 怪しい業界用語辞典 その1
- となりの山劇 No.141 桃色印のお仕事 その8
- となりの山劇 No.140 桃色印のお仕事 その7
- となりの山劇 No.139 桃色印のお仕事 その6
- となりの山劇 No.138 桃色印のお仕事 その5
- となりの山劇 No.137 桃色印のお仕事 その4
- となりの山劇 No.136 桃色印のお仕事 その3
- となりの山劇 No.135 桃色印のお仕事 その2
- となりの山劇 No.133 むふふなお仕事
- となりの山劇 No.132 怪しいお仕事
- となりの山劇 No.131 アダルトなお仕事
- となりの山劇 No.130 車が無い生活
- となりの山劇 No.129 話にならない話 その12
- となりの山劇 No.128 話にならない話 その11
- となりの山劇 No.127 話にならない話 その10
- となりの山劇 No.126 話にならない話 その9
- となりの山劇 No.125 話にならない話 その8
- となりの山劇 No.124 話にならない話 その7