となりの山劇シリーズ |
まんまと実験台にされてしまった話
ちょいと前回のおさらいを軽くやっておきます。名古屋市内の某フーゾク関連代理店勤務のS君の上司であるKさんが、新聞掲載広告の新企画を考案した。それは一般的に3行広告と呼ばれているスペースを『恋人募集』に活用できないかというもの。そこでボクともう一人が有無を言わさず強引にその企画のモニターとして採用されてしまった。という話。
何故僕たちが採用されたのか、理由は二人とも『一人暮らし』していてしかもアパートに『電話』があるということ。この当時は携帯電話なぞ世の中に殆ど存在していない時代。それだけに部屋に自分専用の電話を持っているという事が結構貴重だったりするのである。ビンボーなくせに。
手順はこうだ。まず広告を出す。内容は「今寂しいので電話が欲しい」とか、「一緒に食事がしたい」といったような文章をKさん側で準備してそれぞれに僕たちの電話番号を入れる。こうした「3行広告」を数日間連続して掲載させる。
後は、実際に電話がかかってくる状況を逐一報告する。というのがモニターとしての内容。これでバイト代を幾らくらい貰ったかどうかは忘れた。雀の涙値度、良く言えば「寸志」ってところだったと思う。結構人使いが荒いのである。
それで実際の話なんだけど、こんなので電話がかかってくるなんて思っていなかった。でも、これが掛かってくるのだよ。
んでもとりあえずこちらは男性の名前で掲載されているので、掛かってくる電話は女性が殆ど。ここで何故かあえて『殆ど』としたのか。その話は後でのお楽しみ。
実際の話、掛かってくる電話の中で一番多かったのがいわゆる『いたずら電話』。そりゃあ~そーだわ。大体こんなアヤシイ3行広告をまともに相手をする方がオカシイ。ちょっとくらからかってやれと思うほうが正常かもしれん。
んでも、一番困ったのが電話が掛かってくる時間。僕らーは大体夜の10時頃に帰宅すれば良い方というような仕事をしていたのに拘わらず、帰宅してからレンタルビデオ屋へ行ってビデオを借りてくるやら、また別の友人を誘って酒盛りするなどの荒行を重ね、下手をすると空が明るくなる頃に寝るといった極めて不健康な生活をしていた。
これは何も毎日の事ではないが、週の半分はこのようなもの。だから、限られた睡眠時間がとても貴重だった。しかし、かの電話はこの貴重な睡眠時間の間にも遠慮なしに掛かってくるのである。もう眠くてかなわんので、殆ど寝ながら対応した事も有る。朝になったら何処までが本当で何処までが夢なのか訳判らん時もあった。
きちんと会話が出来た電話に限ると、相手の女性は年齢的にはかなり広範囲で、若そうな女性も居れば妙齢と思われる女性もいたと記憶している。記憶とは常に自分に都合がいいように記憶しているものなので、この辺りの話半分どころか十分の一位に理解して頂きたい。
「こんにちわ、初めまして。」
「どうしてあのような広告を出したのですか。」
「お友達が欲しいのです。」
「好きなタイプの女性はどんな感じかしら。」
例えばこのように会話が進んでいく。今でこそメールの友達募集とかいって気軽に『メル友募集』なんて広告をうつ奴がいるが、それと似たようなものであろう。(似てないって!)
それでも一応暇つぶしにでも電話をかけてくれるのは、こちらも相手ができるので、まだいい。中には確かにアヤシイ人達もいた。
「RRRRRRR・・・(電話の音)」
「もしもし。」
「あ・・・ん。はァ・・・・ん」
「もしもし、もしもし。」
「はァ、はァ、はァ、はァ。・・・・」
「もしもし、もしもし。」
「私、・・・今、・・ハダカなの・・・・」
「はぁ???」
「アナタも服を脱いで・・・・」・・<以下自主規制>(^^ゞ
何処までがマジで、何処までが演出なのか。よーわからん電話も掛かってくる。とにかく初めて接するその非日常的な世界の実態に、連日目テンになるわドキドキしたりしていたのであった。
この電話の件を頼まれる際に、実際に会えるものなら会うようにというアコギな指令をKさんから受けている為、純真で正直な若者であった僕たちは、電話で会いましょうという話になった時には「それ行け!」ってな感じで待ち合わせに指定した場所に急行したのであった。決して電話の女性をナンパして仲よくなろう、という様な下心ではない。指令だから仕方がないのだ。指令ってのは辛いな~。などと空に向かって言い訳しながら待ちあわせ場所に行くのだが、ついに一度も合う事は実現しなかった。もしかすると影に隠れて見られていたかもしれん。しょせんイタズラ電話なのである。
さて、今回の話の冒頭辺りの『殆どは女性』という部分を記憶しているだろうか。そう、当然ながら世の中には『殆どは女性』以外の方も数多くいらっしゃる訳で、そういった方からも電話が掛かってくるのである。
たいていの『殆どは女性』の方は興味半分って事で電話を掛けてくるのでこちらの対応も楽と言えば楽なのだが、反面、それ以外の方から掛かってくる電話は話がマジである。真剣に友達が欲しいと言って掛かってくるのである。
でも残念ながら僕たちの性的嗜好はノーマルであった為、イキナリ対応に困る事になってしまった。その当時は知らないが、現在はいわゆる『ゲイバー』がれっきとして存在し、しかも結構楽しいと認知されているが、当時の僕らの心にそんなキャパは無い。
それで、そのような方からの電話はなるべく無難に切るように心掛けていた。が、一人だけどうしても断りきれない男性がいて、ついにその自宅へ伺う事になってしまった。
その人の自宅はいわゆる高級住宅街の一角にあり、洋風の立派な建物だった。それで実際に会っても、ただ話をするだけで、山劇の読者が期待している事は何一つ無い。ただ、かなり裕福な生活をしている事は確かで、伺う度に何かを頂いてしまった。話はこれだけである。
このような結果を聞いた代理店のKさんは、これは商売になると見越してこのような恋人募集欄を一気に拡大したのであった。その後にこの欄がどうなったのかは知らない。
そしてその後、僕たちは共に会社を辞め、共に別の世界へと進んで行き、現在に至るのであった。
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