2015年04月10日

となりの山劇 No.131 アダルトなお仕事

山劇/となりの山劇シリーズ


世の中にはこのような仕事もある


 あれは今から10数年以上前の話である。その当時は名古屋駅の近くにある小さな印刷会社のような会社で働いていた。あえて「ような」と付け加えたのは、小さな制作会社に始まって製版フィルム工場、刷版工場、校正機工場、一般的にコピントと呼ばれる印刷機工場、ごく小ロットに対応する製本工場等が一定の地域内に家屋に分散して存在していた。一応それらは別々の社名が冠されていてそれぞれに責任者が居たけれど、元をたぐると一人の社長がオーナーとして存在するという、今にして思えば妙な会社だった。

 そういう妙な会社なので、働いている人達もまた一癖二癖あるような連中が群雄割拠していた。中でも仕事場が近い印刷を担当していた45歳と推定されるAさんは、元々営業の担当をしていたのが、ある日突然印刷をやると宣言して、どうやら自己資金で中古の印刷機を購入して印刷の仕事を始めた。

 その時は何故自己資金でと思ったのものだが、どうやら資金調達の元締めがオーナー社長であり、資金と場所の融資をしてもらって自分がその現場の責任者になり、仕事の上がりから機械代と場所代を支払い、残りを全て自分のポケットに収めるという仕組みらしかった。でもこれはAさんが特異であり、全ての責任者がそうだとは言えないが、似たところはあるようだ。

 Aさんは毎日仕事場に顔を出すがすぐさま機械を動かす訳ではなく、一日のうちの半分ほどは仕事取りと印刷の前工程の準備をしている。それらの準備が揃ってから初めて印刷機械を起動する事になる。印刷の機械は起動してからすぐに使用可能にはならない。インキの調整、圧力の調整、給水の調整、ズレ、いがみ、そして一番大事な事は汚れが無いようにすること。こういった調整が済むのにたっぷりと1時間以上はかかるものである。

 こうした準備を済ませてから、例えば3000枚印刷するのに調子がよければ1時間とかからない。ここであえて「よければ」と強調したのは、たいていの場合どこか調子が悪いからである。やはり決定的に職人としての経験が不足しているのである。

 印刷が完了したら今度は断裁と、あるいは製本、そして梱包という作業が待っているが、その作業もAさんは自分一人で完結させてしまう。そして納品。

 つまりそれは、ちょっとした印刷物ならば自分の周りだけで完結してしまう事を意味している。ごく少数の、しかもよく気心が知れた人の間をくぐるのみという事になる。

 そして、このシステムに目をつけた人達が居る。ここでやっとタイトルに関係した人達が登場してくるのである。安心した? そてはとある広告代理店のSという、年齢にして22歳程の営業マンである。

 その広告代理店というのが、いわゆるフーゾク関連の雑誌や新聞といった媒体の広告スペースを媒介、もしくは制作するといった仕事をしている事でわかるように、要するにその手の制作の仕事が舞い込んでくる。

 例えばこうだ、ある雑誌媒体の見開き2ページを押さえてある場合、その2ページをまるごと1社の広告として扱う事ができればいいのだが、そんなに気前がいいクライアントはめったに居ない。

 そこで、その2ページを分譲してしまう事を考える。1ページを縦横2分割して2ページで合計8ワクの広告スペースが出来上がる。そうする事によって掲載料を下げて、広告の受注をとりやすくするのである。そして恐らく1社で広告を扱うよりも8社で扱った方が儲かるという事も有るようだ。

 広告代理店のS君はこの枠を埋めるのが仕事であり、枠が売れ次第制作の仕事を持ち込んでくるのである。その広告枠のクライアントの殆どは要するに「テレクラ」業者だったと思う。

 ここまではどこでもある普通の仕事なのだが、ある日縦に細長い帯に文字だけが入ったようなモノの仕事が舞い込んできた。どうやらそれはビデオのタイトルらしいのだが、原稿を見ると「濡れ濡れ」とか「人妻」とか「女教師」とかいう文字が入っている事から、どうやら「洗濯屋ケンちゃん」の類いの「自主製作」ビデオではあるまいかという想像はつくが、現物を見たわけでは無い。

 そしてその次にはとある商品の価格表一覧という仕事が舞い込んできた。その中にはやはり先程のような文字が入ったタイトルが並び、その横に画質AとかBとかの記入があり、価格が列記されている。これももしかすると「洗濯屋ケンちゃん」の類いの「自主製作」ビデオのリストではあるまいかという想像出来るが、どこにも証拠はない。僕たちは依頼されたものを制作して次の工程に回すだけが仕事なのである。

 その他の仕事としては先程のS君の依頼でテレクラの手配り用ティッシュの制作とか、「試写室」があるレンタルビデオ屋の広告とかがやって来る。そして何に使用するのか全く判らないが、名刺よりも一回り大きな大きさで、中心に女性の写真が入り、店名と電話番号のみが入ったカードの制作や、何やら源氏名と電話番号が入った名刺のようなカードの制作の仕事もあった。

 そうしているうちに国会である法律が承認された。いきなり話題がとっぴな所に飛んだかな? とにかくそれ迄は、非合法的な商売が摘発された場合、その業者だけが取り締まりの対象だった。しかし、この時に承認された新法ではその非合法的な業者だけではなく、その業者に「加担」した全ての業者が摘発の対象となるというものだった。とはいえ、ただ単に法律が改正されただけで仕事には全く影響が無かった。

 ところがである。あれは名古屋デザイン博の開催を間近に控えた頃だったと思うが、名古屋市内のフーゾク関係の業者が一斉に摘発され始めた。どうやらデザイン博の開催前に市内のクリーンアップを図ろうという名古屋市の方針であったらしい。この情報は例のS君がいち早く仕入れてきて、慎重に仕事をしなくては、という話をしたような気がする。

 この頃から印刷のAさんは、危なそうな仕事は伝票ではなく現金でのみ受注するようになった。その中で、Nさんという人から受注したカードのような仕事があった。その仕事を納品してから1週間程たった頃だろうか、新聞の朝刊にNさんの顔写真がでかでかと掲載されていたのに驚いた。新聞によるとNさんは「ホテトル」の経営者で、その時のカードはどうやらビジネスホテルのドアに挟み込んでいくという用途に使用されていたらしい。

 これに一番泡食ったのが印刷のAさんで、朝一に会社にやって来るなり印刷の際に出た試し刷りなどのゴミとか、その他の業者から受注した印刷物の残りとか、ありとあらゆるヤバそうな書類を焼却処分してしまった。その後も何食わぬ顔で仕事を続けていたが、警察がやって来る事は無かった。

 当然ながら、そういった仕事は全体から見ればほんの一部のオマケでしかない訳で、印刷の方としては知らないが、といあえず無くなっても痛くも痒くも無いのである。

 そういう妙な仕事が舞い込んできた会社は、それから暫くして退社してしまい、現在の会社に移ったのである。ああいったアダルトな仕事も結構面白いところもあったんだけどね。今となってはとても懐かしく思える。



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