初夏のある日、何の前触れも無く、何処の誰かは知らないが私の頭の中に「北海道へいくぞ!」とささやいた。なぜ今、北海道なのか。それは本当の本当に軽い思いつきに過ぎなかった。
「北海道かあ、・・・いいなあ。・・・・・うん、行こか。」
あっさり決めてしまった。その当時、原付免許を取得してから4年。中型免許をとってからまだ2年という超ビギナー。しかしココロはすでに北海道にあった。
翌日、会社で北海道へ行く宣言をしつつ夏の休暇を申請。同時にフェリーの予約を申し込んだのだが、時期が悪く帰りの便しかとれなかった。
「ま、何とかなるさ。」
この時はそう思っていた。繰り返すが、その当時はろくにツーリングを経験していないビギナー。知識もノウハウもなーんにも持っていないが、気楽さだけは天下一品。装備の準備として、出発数日前に北海道地図を買う始末。当然北海道についての知識はまるでない。辛うじて札幌と函館と網走という地名は知ってるものの場所を示せないし、どんな所だと聞かれても答えられない。
ただこの当時は北海道がブームになりつつあり、地平線が見える真っ直ぐな道路や一面のなだらかな丘。日本一水深が深く透明度が高いという湖があるとか、一面のラベンダー畑があるとか。突然出来た山があるとか無いとか。極めて断片的な情報はあるものの、正確な場所は知らない。
そもそも今や常識と言える「ツーリングマップ」も当時は存在しなかった。かなりいい加減な状態だったが、とにかく「宗谷岬へは行こう」という方針だけ決めた。荷物は地図と雨具と軽い着替えと、洗面具をタンクバックに。毛布を一枚押し込めたカバンをリアにくくりつけ、資金を郵便局口座に入金し、これで準備は完了。今考えるとまさに無謀という言葉がそのまま当てはまるような軽装だったと思う。
結局最後まで小樽行きのフェリーを取れなかったので、止む無く高速道路を乗り継いで青森まで行く事に決定した。出発前日の夜は不思議とぐっすりと眠ることができた。嵐の前の静かさというやつである。
東北を目指してひたすら走るのである
空が薄く明るくなる頃に目が覚める。眠い目を擦りながら軽く朝食を済ませ、日の出とともに岐阜市内のアパートを出発した。とりあえず目指すは東京である。
北海道ツーリングの日程に時間的余裕は無い。一宮インターからさっさと高速に上がり、途中の分岐点で何となく中央道を選んだ。普段あんまり走ったこと無い中央道を走ってみたかった。中央自動車道は現在と違い車の台数が少なく、走るのは極めて快適。途中数回の休憩を挟みつつ走りつづけると、中央道終点に近づく頃には昼になろうとしていた。
当時、中央道は東京の首都高速に接続しておらず、高井戸が終点。同時に東北自動車道もまた首都高に接続していなくて川口が始点。そういう訳でどうしても都内を走る必要があり、終点少し手前の八王子で高速を降りることにした。それから地図で確認しながら慎重に走ったつもりだったが、結局横手基地を越えた辺りで迷ってしまった。東京近郊の街道というのは道路巾が狭く、まっすぐの様で微妙に曲がっていたりして、方向感覚がかなり狂ってしまう。持参した地図も縮尺が大きすぎて全く役に立たないし。
どこをどう走ったか全く記憶に無いが、どうにか久喜インターに着いた。確認すると目指したはずの岩槻インターとは90度程方向が違っている。その時点で昼はとうに過ぎていた。後々冷静に考えると、昼の時点でまだ東京ではてんで話にならない。東北まで行こうという事の重大さを全く理解していない。
さっそく東北自動車道に乗り、今度は東北を目指して走りはじめた。片側3車線の道路は快調そのもの、途中何回か休憩を挟んで走ったつもりだが、次第に休憩時間が増えていき、・・・
「もーやだ、もう走りたくない。」
ついに走るのに飽きてしまった。仕方ないのでPAの気持のいい芝生を選んで暫く眠る事にした。空は突き抜けるように青い、快晴である。
「うーん、良く寝た。」
どれだけ眠っただろうか。すでに日が傾きかけている。今日はとにかく行くところまで行くつもりだ。「えいッ」とばかりに気合いを入れ直し、重い足をひきずるようにして再び走りはじめた。
一関を過ぎる頃にはすでに日はとっぷりと暮れて、そして少し前からXL250とつるんで走っている。なにしろ夜間の東北自動車道は車が全く走っていないし、しかも道路は真っ暗。一人ポツリと走るのはあまりにも淋しい状況だ。途中、東北を回るというXL君とは別れたが、自分まだ高速の上にいる。時刻はまもなく夜中だろうか。既に全身の力が抜け、気力と惰性だけで走っていた。
今日は東北自動車道最終の岩手山PA(当時、東北自動車道は安代迄しか開通してなかった)で寝る事に決めている。間もなくして目指すPAに到着し周りと見渡すと、すでに先客が数名いてすでに寝ている。駐車場の隅にバイクを止めて荷物を降ろし、屋根がある下の場所を選んで近くにあったダンボールで寝床をつくり、持参した毛布にくるまりながら明日のルートを検討していたら眠くなったので、すぐに寝てしまった。これが人生初野宿である。
本日の走行距離は正確には不明だが、少なくとも900キロ以上は確実に走っている。いや、1,000キロ近いかもしれない。この距離は未だに自分的最長不倒記録となっているのであります。
次号、人生初北海道上陸を果たします
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