2014年09月18日

東北ぐるり一周18きっぷの旅 1998 その8


山劇トラベルシリーズ


本日は日本海側をひたすら南下するのみ




 昨日は寝るのが早かったのか、未だ空が暗いうちに目が覚めてしまった。時間的には充分なのだが、長イスが狭いので寝返りが打てず、クッション用に敷いたンボールが足りなかったのか背中が痛い。

 そういえば、夜中の間に戸が開く音が何度か聞こえた。夜中にトイレだけ使いにやって来る人がいるのだろうか。それと何処から来て何処へ行くのか、この狭い駅前を通過する車がやたら多かったような気がする。気のせいかもしれないが。

 外は相変わらず雨が降っているので散歩も出来ない。朝になって雨が止んでいたら早朝の温泉に入りに行こうかと考えていたけど、止めた。おとなしく後片付けをして、素直に朝の始発電車を待つ事にした。

 すっかり明るくなった朝の5時58分、岩館行きの列車がやってきた。昨日乗ってきたのと同じ色をした2両編成のディーゼル列車である。艫作駅から乗り込んだのは自分一人だけ。車内には数人の女子学生が乗っていた。乗り込んでからすぐに進行方向右側のボックスを占領してどかりと座った。久しぶりにクッションのあるシートに座ってほっとした。

 列車は景観抜群の海岸線をゆっくりと走り抜けていき、岩館で東能代行きに乗り換える。岩館から能代直前までも景観がよい海岸線が連続する。ローカル線に乗ってのんびりと海を眺めるのが気持ちいい。

 このような路線は2両編成程度の旧式な列車が似合っていると思う。昨日見た「リゾートしらかみ」のような最新式列車ではこのような味わいをじっくりと味わう事は出来ないのではないだろうか。

 7時34分、東能代着。今日はとにかく夜の10時までに新潟に到着すればよい。艫作駅で始発列車に乗ってしまったので時間的に余裕がある。乗る電車には特に制約は無いが、東能代で途中下車する理由も無いので、さっさと先を急ぐ事に。次は7時40分発の秋田行きに乗る。


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 乗り換えた電車は、ほぼ満席に近い状態であった。そしてこのとき「腹がへった」事に気がついた。今日は起きてから何も食べていない。思わず昨日の悪夢がよみがえってきた。

 この区間は殆ど海が見えないが、途中で八郎潟が見える。話にはいろいろ聞いているが、実際に見るのは初めて。

 とにかく広い。かつて湖だった場所を干拓して農地にしてしまった地域である。よく眺めると、他の農地とは違い明らかに大規模農業地になって
いるようだ。しかも整然と防風林が並んでいる様は、北海道の帯広辺りの風景に似ているなと思った。

 8時37分、秋田駅着。到着と同時にホームの立ち食いうどん屋へ飛び込む。


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 「うどんを一つ下さい」
 
 これでやっとほっとした。腹減り地獄の寸前だった。秋田駅は思いの外近代的で大きい。それに人が多いのに驚いた。実は、秋田にやって来る際に「秋田小町を捜せ」という密勅を受けていたのだが、駅前の人波を眺めている限り、他の地域と代わり映え無く、特に美人が多いという印象は無かった。
 
 「もっと田舎にいかないとダメだよ」
 「盆だからな、きっと家に居るんだよ」
 
 後日いろいろ話を聞くと、このような意見が多い。本当だろうか。

 9時22分、秋田発酒田行きの電車に乗る。またしてもロングシートの車両である。幹線になると途端にロングシートになってしまう。これだと自分の正面の景色はなんとなく見えるが、後ろの景色が見にくい。

 ここからは酒田までは海岸線にごく接近して走る。雨は降ったり止んだりして、空はどんより暗い。でも、この空がかえって日本海の鄙びた海岸線や暗い海の色ににマッチして、なんともいえない風情がある。

 今日ここまで、できる限り早い電車で乗り継ぎをしているのは、酒田でゆっくりしようと決めたからである。手元のガイドブックによると、歩いて廻れる範疇にいろいろ見所があるらしい。

 今回の旅行の目標は、ひとつひとつクリアされてきたが、ここでもひとつ目標がある。それは「鳥海山」を見ること。この鳥海山にはドライブウエイがあり、オートバイ乗りの間では有名な場所である。今回の旅行はオートバイではないが、いずれ来たときの下見として姿が見れたらいいなと思っていた。

 しかし残念ながらこれは達成されなかった。昨日からの悪天候で、深い雲の中に完璧に隠れてしまっている。おかげで山裾でさえも確認できなかった。恨めしき雨雲だ。

 鳥海山近くの駅では多くの登山者が電車に乗り込んできて、人数の割には車内が狭くなってきた。列車は酒田に向かってひた走る。。


酒田で気ままにのんびり観光編


 11時7分、酒田駅到着。そして次の列車の目標を15時40分とする。計算上は4時間以上の余裕がある事になる。


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 さっそく駅の外へ出てみると、予想に反して人の気配がまるでない。商店街も殆ど閉まっていてもぬけの殻という印象が正しいだろうか。
 
 少し拍子抜けしたが、観光案内所でゲットした観光マップを片手に駅前を歩いてみる。地図を見ると、「本間家旧本邸」というものが目に付いたので探してみようと思う。

 途中町の商店街は相変わらず閑散としていて、自分以外の誰も歩いている様子が無い。車の通りもまばらである。歩きながら別の事、今日の昼飯の心配をしていた。まさか酒田まで来て食いはぐれる事は無いだろうと信じきっていたが、駅前からここ迄の店は見事に閉まっている。営業していたのはわずかにラーメン屋1軒のみだけ。

 本間家旧本邸はすぐに見つかった。門から中に入ると思いがけず大勢の観光客がいて驚いた。数少ない観光スポットなのだろうか。解説によると、この屋敷はかつて幕府巡見使のために建てられ、その後は戦時中まで本間家が居住していたらしい。造りとしては武家屋敷である。


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 次に近くの回船問屋商人屋敷へ行ってみる。こちらは先程とは違い商人の屋敷だからか、幾分か豪勢に見える。そして、この商人屋敷の方には「もてなし料理」の調理現場を再現したろう人形があり、見方によっては不気味である。

 先の武家屋敷もそうだが、立ち入り禁止の札がかかっていない限り何処へでも入って良い。こういった屋敷を味わうには歩いているだけでは面白くない。ぜひとも座ってみるのがよろしい。


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 特に、屋敷の主が座って居た場所、客人が座る場所に座ってみると、例えば部屋の装飾や額飾りの位置なんかが、きちんと計算されている事に気がつくに違いない。また、これら昔の屋敷は風通りが抜群に良い。外は歩くだけで汗がにじみ出る程暑いのに、建物の中は特に冷房をかけているわけでも無いのにもかかわらず涼しくて過ごしやすいのは、風通りの事をきちんと考えてあるからだ。

 結構のんびりしたつもりだったが、まだ時間が余っている。再び地図を眺めると、もう少し歩いた先に米倉があるので行ってみる。この倉はかつて、庄内米を集積して保管する為に作られた米倉で、一棟の広さが100坪あるという。その大きさの倉が10棟以上連なっているのである。しかもこれらの米倉群は現在もなお現役として使用されており、その中の1棟が歴史資料館として公開されている。


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 さて、駅から随分離れてしまった。この先へ進むと帰りがつらくなりそうだ。それに、そろそろ腹が減ってきた。この辺りで引き返しつつ、途中にあった奉行所跡を見に行くと、入り口には立派な門が建っていたが中には何もなく、正面にかつての奉行所を再現した小さな模型があった。何気なく模型を眺めていると、何処からかいきなり声がした。

 「何処から来なすったね。」

 後ろを振り向くと、一人の老人が立っていた。いったい何処から現れたのだろうか。
 
 「名古屋からです」
 「それはご苦労さんです」
 
 その老人は、左側にある小さな祠の中に奉行所に関するパンフレットがあると勧めると、いきなり奉行所の解説を始めてしまい、雰囲気的に逃げられなくなってしまった。

 この奉行所跡の中には何も無いとはいえ、ちょっとした木立が茂っていて、お稲荷さんがあったりする。

 「ちょっと一周してきます。」

 そう言って一周してくる間にもうその老人の姿は無かった。何処へ消えてしまったのだろうか。

 結局昼飯は来る途中でに見つけた中華そば屋だけしか無かった。古さに年期が入った狭苦しい店内には意外なほど客がいて、ほぼ満席状態。厨房及び店内を一人で切り回しているおじいさんが忙しそうに動いていた。

 メニューは中華そばがメインで、大きさが大中小とあり、たまたまとなりのテーブルに運ばれたものを眺めて、中を注文した。

 この店の特徴は、手打ち麺にあるらしい。普段食べる中華そばとは違うなとは思ったが、見た目よりコシが無い。スープは普通だろう。具の方の取りそろえも普通だが、特に焼き豚がおいしかった。全体にはおいしい部類だと思う。

 その店内で、これからどうしようかと考える。時刻表を眺めると今から駅に戻れば14時20分発の新津行きに乗れそうである。酒田市内にはまだまだ面白そうなスッポっとがありそうだが、少々離れている。そちらを回ると時間がかかりそうだったのでさっさと諦め、新津行きに乗るべく駅に急いだ。


ひなびた日本海を眺めながら列車は進む


 相変わらず閑さんとした駅前を通って駅に入り改札を抜けると、広いホームの片隅にこじんまりと新津行きの列車がいた。東能代から酒田までは電車だったのに、再び古ぼけたディーゼルである。でも、ディーゼルは好きだよ。同じように走っていても、どこか電車とは違う。


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 なによりもありがたいのは、冷房が効きすぎない点だ。最近どうも冷房に弱くなってしまった。かといって全く無いと汗だくになってしまう。いわきで乗った電車は「弱冷車」だったが、それでも充分に寒かった。これがディーゼル列車だと、はなっから冷房が弱い。もしくは無い。この辺りの列車は東海地区とは違い、窓が昔ながらに開くようになっているので、暑ければ窓を開ければよい。
 
 車両が古いという事は乗客も少ない。この時間帯の普通列車は1時間に1本も無いくらいだが、それでも車両内はがらがら。

 列車が鶴岡を過ぎると、線路は再び海岸線を走るようになる。空の天気は再び怪しくなってきて、時折小雨が混じるようになってきた。車窓の日本海もまたその天気に呼応するかのようにどんよりとしていて、ローカル列車の味わいを醸し出していた。

 結局今回の旅行中で、この辺り、「笹川流れ」近辺が一番良かった。いままでずーっと理想としていた情景に一番近かった。三陸鉄道の方が景色が良さそうなイメージだが、あちらは案外トンネル区間が長くて列車内からの眺め思った程でもない。のーんびりと、しかもだだくさに景色を眺めるという点では、日本海側の方が合っているかも。
 
 そして、いつの間にか居眠りしてしまったようだ。気がついたら新発田駅に近くなっていた。もう海は見えない。



最終地点新潟で思わトラブルが
次号最終話 寝台列車に乗るのだ!

東北ぐるり一周18きっぷの旅 1998 その9





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■東北ぐるり一周18きっぷの旅 1998のインデックス

<その1> 東北計画が発動し、いよいよ名古屋を出発する。
<その2> 電車をひたすら乗り継いで仙台に到着。
<その3> 超有名観光地の松島にやって来ました。
<その4> 三陸鉄道を乗り継いで八戸のカワヨユースへ。
<その5> カワヨユースでは快適な温泉三昧。
<その6> 青森で飯を食べそびれ、弘前でリベンジを。
<その7> 憧れの五能線に乗って黄金岬不老ふ死温泉に入る。
<その8> 秋田と酒田で途中下車し、電車は新潟に向かう。←今ここ
<その9> 新潟で省エネ観光し、憧れの寝台急行で帰宅する。




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posted by サンタ at 21:13| Comment(0) | 山劇トラベル | 更新情報をチェックする
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