山劇トラベルシリーズ |
ローカル線の聖地「五能線」とは
「Holiday」にも投稿しています <18きっぷで巡る東北ぐるり一周、大昔の旅> |
さて、いよいよ鉄ちゃん聖地とも言われている五能線である。いきなり余談だが、この五能線の不便な事は半端ない。列車の接続が極悪なのである。今回の18きっぷによる鉄道旅行行程は、五能線の時刻を基準にして全体を合わせたと言っても過言ではない。さらに付け加えると、本日計画している黄金崎ふ老不死温泉に照準を合わせたと断言してもよい。これらが無ければ全体に余裕を持ったスケジュールが出来たのではなかろうか。
ちなみに、今日泊まれる所は・・・無い。出発前に手配はしてみたが、ついに確保できなかった。そもそも狙っている料金設定にムリがあったような気もするが、宿泊に1万円以上も出したくはない。そんな事をするなら、軒下にでも寝て、1万円分腹いっぱい美味しいものを食べてやる。所詮そういう奴である。
今日何処で泊まれる(寝られる)かわからないので、その用心として夜食一式を買い込んでから五能線の列車に乗り込んだ。五能線は当然ディーゼルである。やはり「ローカル」はこれでなくてはいけない。
12時56分、列車は青森方向に一駅だけ戻り、スイッチバックしてから本来の五能線に入る。列車の両側は一面のリンゴ畑。絵に描いたようなつぶなりのリンゴを見るのは初めてである。とはいえ、シーズンには未だ早い。
五所川原駅の構内で珍しい形をした車両を見つけた。あれはもしかして津軽鉄道ではあるまいか。たしか車内にだるまストーブがあるというアレか。今回は無理だが、アレもいつか制覇したい。
鯵ケ沢駅の手前で、いきなり目の前に海が開けた。正真正銘の日本海である。やっぱり海はいい。その鯵ケ沢で行き違い待ちで停車していると、反対側からやたらデラックスな車両がやってきた。あれは季節臨時快速「リゾートしらかみ」である。
その列車がちょうど真横に停車したものだから、その貧富の差が激しいことったらない。ついでに中を眺めてやったら、中の構造が少々変わっていて、まず、窓が巨大なガラス張りになっていて、もう片側の窓側が通路になっている。向かい合わせのボックスシート座席が片側しかなくて、しかもそのボックスの間には壁があり、シートは3人掛け。つまり、一つのボックスに6人座れる構造になっている。これはブルトレのB寝台を想像してもらえばいいかも。
当然座席は海側にあるのだが、この列車はいわば『海岸鑑賞』専用車両のようになっている。そうだな、この列車が時計回りに本州一周するなら、常時いつでも海が見れる本当の「シーサイドライナー」だな。でも、どちらに乗りたいかといえば、やはり今乗っているディーゼルの方でいい。どうぞみなさんあちらの快適快速に乗って下さい。私は空いているディーゼルに乗りますから。
鯵ケ沢を出発すると、列車は景色の良い海岸線を延々とゴトゴトと揺られながら走っていく。五能線はこういう所である。そうして弘前から揺られ続けて3時間。途中深浦で乗り換えつつも、列車は15時58分、目的の艫作駅に到着したのであった。
ホームに降りたのは自分一人だけ。田舎にありがちな無人駅である。
まるで晒し者のような露天風呂
いよいよ目指す温泉である。今回の旅行のメインイベントと言ってしまっても一向に差し支えない。すぐにも出発したいところだが、少し待て。まず今夜の宿になると予想される駅待合室を点検する必要がある。
そこで、改めて駅舎と待合室全体を眺めてみる。駅舎と言ってもその大部分が待合室で、中に入ると12畳程の広さがある。その中に一人掛け×5のベンチが2脚と、長イスが2脚、それと物置台のような長いスペースが一つあり、確かに同時に3人寝ることができそうだ。トイレはある。ただし「どっぼん」タイプ。水道は無い。
その時はまだ明るかったので蛍光灯は点いていなかったから、蛍光灯のスイッチがあるかもしれない思って探してみたが見付からな
かった。夜になったらどうなるのだろうか。点灯するのかしないのか、暗くなってみないとわからないようだ。そして、問題の出入り口は全てサッシになっているのですき間風の心配はなさそうだ。これなら虫も入ってこれまい。
最後に肝心の食料関係だが、駅の前には「天野商店」というよろずや風の店が営業している。閉店時間と開店時間が不明だが、一応食料及び飲料水の心配は無さそうだ。
一応これだけの確認をしてから温泉に向かおうとして、いきなり困った。道が分からないのである。駅前には観光案内図がありそうなものだが、姿も形もない。完全にあてが外れてしまった。持っている地図はメイン道路が少しだけ記載されている程度のものである。細かな道はわからない。
とりあえずざっとした距離と方角はわかるので、適当に駅前の一本道を進む事にした。途中、交差点の度に左へ左へと進むと道は下り坂になって、道端に小さく「温泉はこちら」というような看板があるのを発見した。近くに寄ってよく見ると、距離は700メートルとある。もう大丈夫だ。
看板からはずっと下りの道で、その途中に「五能線全通記念碑」という石碑がある。昭和11年とあるのでかなり古い筈だが、土台部分が修繕されていて、かえって真新しい感じがする。その周辺も土ではなくてコンクリで固めてしまってあり、お世辞にも風情があるとは言えない。
目指す温泉には駅からのんびりと歩いたので20分程かかった。温泉ホテルは新館と旧館があり、道路が二股に分かれている所で左の下り坂の方へ降りていくと、坂の途中の左側に旧館があり、内風呂に入る場合はこちらに入る。そして目指す露天風呂は旧館の前を通り抜けた先の海岸にあった。
ここらの海岸は一面の岩場になっていて、その先にある波打ち際に湯船が作られている。湯船の際に大きめの岩が設置され海岸の方から目隠しになっている。
しかし、遠くから見るとなんか不自然である。というのも、これはもともと男女の仕切りが無かった湯船を、無理やりコンクリートの壁で仕切ったか、もしくは女性用を新設したかのような印象を受ける。この新しいコンクリがまた風情がない。先程の石碑と同じで、観光客を誘致しようとして整備したのかのようにも見える。
ところで肝心の温泉だが、湯温はどちらかというと熱め。我慢して浸かっていても5分が限度。また、色は誰が言ったのだろうか、「うんこ色」という表現がぴったりくるような色をしている。これは駅舎の落書きにあった。
この頃、時刻的には5時を過ぎていると思うが、雨こそ降ってないものの、天気の方がイマイチ良くない。このまま夕日を拝むこと無く暮れていきそうだ。温泉に入りながらの夕日を楽しみにしてきたのだが、次回へのお楽しみということになりそうだ。
本日の宿は艫作駅に決定!
湯船に入ったり出たりを幾度か繰り返してから温泉から出た。それから堤防の上に座って、弘前駅で購入したおにぎりを全部食べたら満腹になってしまった。
堤防で座っている間にも露天風呂にはひっきりなしに人がやってくる。坂の上から来る人はたいていホテルの宿泊者だと思うが、車で来る人は違うだろう。そんな中で一人ぽつりと座っている自分がある。しかも今日の宿が無い。そしていつもの相棒であるバイクも無い。一瞬だが、ふと何だか寂しいような不思議な感覚がした。そういえば今日は殆ど誰とも会話をしていない。
このまま待っていても夕日を見れそうにもないので、駅に引き返す事にした。温泉に来るときはずっと下り坂で楽ちんだったが、今度はずっと上り坂である。温泉でほてった体から滝のような汗が流れ出した。かなりしんどい。
駅に戻る頃には薄暗くなってきていたが、駅の明かりは未だついていない。もしこのまま電気が灯かなかったら、待合室の中は真っ暗になってしまう。その前に寝床を作る必要がある。
まず、今晩の寝床は窓際の長イスに決めた。天野商店で頂いてきた段ボールを長イスに敷き詰める。その上に用意した毛布をかける。次に荷物の整理をして虫除けと目覚ましのセット、念の為にミニマグライトを用意する。それらを手を伸ばせば届く場所に置いて準備完了。と、思ったらいきなり電気がついた。どうやらタイマーで作動しているらしい。となると、この電気はいつ消えるのだろうか。ずっとついているのだろうか。
とりあえずいつでも寝る体勢は作ったので、もうやることが無い。幸い、待合室の中には駅利用者の「旅ノート」があり、それを読んだり、壁面一面に落書きされているメッセージを眺めているだけで時間が過ぎた。外は既にすっかり暗くなっている。
待合室の中よりも外の方が、僅かな風があって涼しいので、駅ホームのベンチに座っていると、どこからか一人の男性がやってきた。背中にごついサックを担いでいるので、ひと目で山登りをしている人だとわかる。
話を聞くと、5日間程近辺の沢昇りをしていて、今日は久しぶりに何処かで泊まりたくなり山から降りてきたのだそうな。とはいえ宿のあてがあるわけではない。もうすぐやってくる上り下りのどちらかの列車に乗って、町に入ってから宿を探すと言う。
その男性が話す山の話は楽しかった。何しろ久しぶりの会話である。地図を出していろいろ解説してもらったが、残念ながらここらの地理感が全く無い。よくわからなかったが、実体験からの経験談というのは面白い。
そうやって話している時に、近所のオヤジが入れ替わり散歩にやってきては話に混ざっていく。これが一人ではない。数えていないが5人程やってきた。まるで今日どんな奴が駅で泊まるのか確認しに来ているみたいだ。
その親父達にもいろいろ話を聞かせてもらった。ここらの人は漁師が多いので、漁に出た時の話とか、今年も溺れて死んでしまった人がいるとか、温泉への近道とか、いろいろと話していくのだ。
地元の人は温泉へ行くときは平気で線路の上を歩いていく。温泉への近道らしい。聞けば列車はめったに来ないから大丈夫だという。これは列車の時刻を熟知している地元の人だから出来ること。他の人は決してマネしないように。
やってくるのは親父達だけではなかった。近所から中学生らしい兄弟らも遊びに来る。やって来ては「何処から来た」だの「何処へ行く」だの「何処へ行ってきた」だのと、根掘り葉掘り聞いては目を輝かせるのである。
いつの間にやら雨が降ってきた。降ってきた雨は次第に激しさを増している。温泉に入っている頃から怪しい天気だった。今回は荷物の重さからテントを諦めたが、結果オーライの正解だったようだ。雨の中テント張るのも撤収するのも面倒くさい。
19時39分、今迄一緒に話をしていた登山姿の男性は、能代辺りで宿を探すと言って、東能代行きの列車に乗っていった。自分も一緒に行ってもよかったのだが、明るいうちに五能線を制覇したいというこだわりがあって、やはり艫作駅で野宿する事にした。
待合室内は急に静かになった。もう本当にやる事が無い。完全な手持ち無沙汰。外は真っ暗だし、雨が激しく降っている。仕方ないから持参した文庫本を読んだり、時刻表で明日の予定を確認したりして無理やり眠気を誘い、寝てしまう事にした。
こうなると今度は点きっぱなしの電灯がうっとうしい。結局この電灯は朝になるまでずっと点灯していた。
明日はひたすら日本海沿岸を走ります
次号 秋田美人を探せ!
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東北ぐるり一周18きっぷの旅 1998 その8
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■東北ぐるり一周18きっぷの旅 1998のインデックス
<その1> 東北計画が発動し、いよいよ名古屋を出発する。
<その2> 電車をひたすら乗り継いで仙台に到着。
<その3> 超有名観光地の松島にやって来ました。
<その4> 三陸鉄道を乗り継いで八戸のカワヨユースへ。
<その5> カワヨユースでは快適な温泉三昧。
<その6> 青森で飯を食べそびれ、弘前でリベンジを。
<その7> 憧れの五能線に乗って黄金岬不老ふ死温泉に入る。←今ここ
<その8> 秋田と酒田で途中下車し、電車は新潟に向かう。
<その9> 新潟で省エネ観光し、憧れの寝台急行で帰宅する。
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