山劇トラベルシリーズ |
初の18きっぷで東北沿岸を一周する計画が発動 |
「Holiday」にも投稿しています <18きっぷで巡る東北ぐるり一周、大昔の旅> |
日付は8月12日である。その日は東北旅行への出発当日だってのに、まだ会社で仕事をしていた。大きな会社ではとっくの昔に夏季休暇に入っているというのに、小さな会社はそうはいかない。ただ流石に通勤時の地下鉄は空いている。その点だけはとても楽でいい。
今回の東北遠征は今晩に出発するので、今日は自宅へは帰らないつもりで荷物を一式背負い、ポロシャツに半ズボンにスポーツサンダルプラスサングラス、という完璧なバケーション仕様で会社へ出勤すると他の社員は皆あきれ顔していた。別に会社を舐めているわけではない。普段の服装も似たようなものだ。どーせクライアントは全て休暇中だし、来客無いし。別にどぉって事はない。社長の視線は気にしない気にしない。
一応は机に向かってパソコンの操作をするふりはするものの、頭の中は既にバケーションモードにスイッチしているので、集中して仕事が出来る訳がない。幸いにも既に盆前の仕事が終了しているので、お気軽なのである。さて、今日はどうやってフェードアウトしようかということばかり考えている。
時計を眺めながら片付けの用意をし、定時きっかりにさっさと会社を後にする。目指すは鶴舞の実家。出発までの時間潰しと、忘れ物のチェック。それとこれが重要なのだが、晩飯代を浮かせる事。会社は新栄なので、千種まで歩いてからJRで鶴舞へ行く。これが一番便利。下手に地下鉄に乗ると時間もかかるし、乗車料金だって高くつく。
今回の東北旅行は、自分としては初めての長距離鉄道旅行である。この東北旅行の話が出たのは、とある取引先の担当者(W氏)とたまたま電車の話をしていた時で、すっかり意気投合した我々は、いつの間にか今度の夏に東北へ旅行しようという話になっていた。これがそもそもの始まりだった。
以前から常々『長距離鉄道の旅』というのを一度やってみたかった。だから今回の話は願ったりもない話。その後も何回かの打ち合わせを重ねていったのだが、そのうち段々事情が変わってきた。実際のスケジュールを検討していくうちに、やっぱり東北は遠すぎるから、もっと近場にしないかという話になってきたのである。
しかしながら、自分としては元々行き先が『東北』だから乗った話。それでは話が違う。ここはなんとか東北旅行を実現したいので、行きたい所や乗りたい路線を譲歩してもいいから東北にしましょうという懐柔工作も空しく、とうとう最後まで折り合いがつかなかったのでした。
その結果、名古屋駅出発は一緒に行くとして、W氏は東京までの途中で下車する、という話になった。少々さみしいが仕方ない。東北へ行くチャンスを見逃す手はない。逆に近場なら何時でも行くことが出来る。
今迄は、時間の都合や『体力』の都合で、候補を挙げた中からどれを優先しようかという事ばかり考えていた。でも、1人ならば事情が変わる。行きたい所を全部回ればよいのではないか。時間も気にしなくていいし。
はっきり言って今回計画したスケジュールは相当ハードだろうと思われる。ゆっくり休めるのは多分電車の中くらい。でもいいの。一度やってみたかったんだから。
ここで、今回のルートを簡単に紹介すると、基本的に『海沿いに東北ぐるりと一周の旅』となる。東北をぐるりと反時計に回る。東京行きの快速夜行電車で出発した後、仙台、八戸、艫作で宿泊するという予定を計画した。
今回のチェックポイントは以下の通り。
1、三陸鉄道を全線乗る事
2、ユースという所に宿泊してみる事
3、青森で八甲田丸を見る事
4、五能線に乗る事
5、黄金崎不老不死温泉に入る事
6、鳥海山を眺める事
7、寝台列車に乗ってみる事
8、少しは観光する事
1番目の三陸鉄道というのは例のリアス式海岸を縫うように走る鉄道の事で、日本で一番最初に第三セクター方式となって経営されているという路線である。路線の大部分が海岸線という触れ込みなので、ここは景色を期待したい。
2番目のユースは特に説明も必要無いと思うが、一言で言うと日本ユースホステル協会に加盟してしる宿泊施設の事。今迄あちこちを旅行する中、いろいろ噂は聞いていたが、普段はバイクにテントと寝袋と道具一式を積み込んで旅をするスタイルの為、利用する機会が一度も無かった。それで今回、特にW氏のススメもあって一度入会してみる事にした。
3番目の船は、かつて青函トンネルが開通していなかった頃、青森と函館の間を連絡していた船の事。当然ながら既に引退していて、現在では当時を偲ぶ博物館として一般公開されているという。一度現物を見てみたいと思う。
4番目は鉄道ファンとしては聖域ともいえる場所・・・らしい。地理的にも本州の端にあり、地図で見るからにへんぴな場所である。この路線も景色がいいらしいので、車窓に期待したい。
5番目の温泉は五能線の途中にある。当然、途中下車するという事になる。しかし、肝心の五能線の列車本数がそーとーに少なく、一度下車してしまったら最後。次の列車まで数時間の待ちというのはザラ。しかも空が明るい中に利用し、車窓を楽しみたいとなると、乗るべき時刻が限定されてくる。今回の計画のネックはここにあった。この五能線と温泉のセットを最適な時間にセットするためにその前後のスケジュールを調節したと言っても過言ではない。そしてその温泉は日本海の波打ち際に露天風呂があり、湯船から見える夕日は一見の価値があるという評判。とても楽しみである
6番目の山はバイク乗りにとって、とても有名な山で、私もいつかはバイクで走ってみたいと思っている。ただ、噂によるとこの山はいとも雲がかかり、めったな事では山頂が見えないという。
7番目もまた、これまで一度も乗った事が無いので、この機会に乗ってみようと決意した。果たして寝台列車とはどんなものなのか。ちなみに寝台列車分は完全別料金となる為、今回の旅費の約半分がこの寝台列車の為に飛んでゆく事になる。
最後に観光。出発して2日目に仙台で半日、5日目に東能代から新潟の間のどこかで4時間。列車乗換えの際にそれぞれ最大1時間半。これが今回の観光時間タイムである。仙台では松島へ行ってみようと計画している。
実家で飯を食ってテレビを見て、風呂に入ってくつろいでいたら出発の時間が迫ってきた。いよいよ出発である。荷物を担いで実家を後にし、中央本線鶴舞駅から電車に乗り、名古屋駅に急ぐ。W氏とは実際に電車に乗るホームで11時に待ち合わせという段取りなっている。
最近の夜行快速は乗り心地がいい
約束の時間ぎりぎりに名古屋駅に着いたが、見回すかぎりW氏の姿は見えなかった。どうせ指定席券を持っているし特に並ぶ必要もないので、そのまま暫くホームをうろついていると、ようやくW氏の姿を確認できた。
「待ちましたか」
「いえ、今来たところです」
W氏の姿を見ると、荷物がやたら少ない。片手に小さなカバンを一つ持っているだけ。それ引き換え自分の方は可能な限り余分な荷物を省いたとはいえ、ディバッグがはちきれそうである。しかも結構な重量があったりする。
「荷物ってそれだけですか。」
「ええ、これで全部です。」
実はディバッグの荷物の中には毛布が入っている。というのも、結局3泊目を予定している艫作で宿を確保できなかったのからである。しかし、別に慌てない。宿を確保できなかったら、テントでも張ればいいじゃないか。どうにでもなるという安易な気持ちがある。この辺りが一人旅の気楽なところ。
準備している時、試しに倉庫の奥から小型テントを取り出してみると、これが意外に重い。いつもはバイクのキャリアにくくりつけて走るので気にもしなかったのだが、改めて持ち上げてみるとその重量と容量が身にしみた。
自分のテントは大昔に登山用品店で購入したダンロップの軽量登山テント4人用である。今回はいつもと違い寝床を確保するだけが目的であって、自炊をするつもりはない。従って、そこまでの居住性は必要ないのではないか。
そこで思いついたのがいつも一緒にツーリングに行く叔父の所有する、ダンロップのモスラ型一人用テント。あれなら小さくて軽いはずだと思ってさっそく借りてきた。これならばカバンに入らないこともないが、寝袋が大きいのでそれなりのカサになってしまう。
ここで一旦情報収集してみる事にした。いつも利用しているNIFTYの会議室で、この温泉近辺の状況について質問してみたら、返答はすぐに帰ってきた。
その情報によると、駅周辺にはテントを張る場所はいくらでもあるとのこと。中でも注目は、艫作駅が無人駅で広い待合室があり、ベッドが3つあるという情報。さらに、駅前にはよろず屋風の店舗が営業しているという。これで、懸念されていた不安が一気に解消された。
結局、今回は荷物の重さを最重視し、軽くて薄くてそれでもって保温効果抜群のフリース素材のブランケットを一枚だけ持参する事に決めた。真夏の夜ならばこれで充分であろう。
名古屋駅のホームでしばらく待っていると、まず、反対側ホームに東京行きの臨時快速電車がやってきた。この電車はシーズンにのみ運行される臨時便で、全車自由席となっている。そのため、グループで行動しようとする場合、まず箱席を確保できない。それどころか、空席自体が無い場合だってある。その為、かなり早い時間から並ぶ必要がある。だから、その電車で確実に座りたいという人はわざわざ大垣まで戻ってから乗るそうである。しかも、その車両がオレンジ色と緑の旧態然とした昔なつかし165系と呼ばれるオンボロ電車で、座席はあの「直角シート」である。こんな座席に長時間座っていようものなら背中が痛くなるのが目に浮かぶ。
それから少したって、我々が待っていたホームに正規の東京行き快速電車、ムーンライトながら号がやってきた。
こちらの方は昨年車両が更新されたばかりで、特急にも使用されている新型車両であり、もちろん冷暖房完備。適度にリクライニングできるシートが有難い。座席は全車指定席になっているため、座席取りに並ぶ必要はない。その替わり、指定席を取るのに並ぶ必要はあるかもしれない。
23時41分、ムーンライトながら号は定刻通りに名古屋駅を出発したのだった。
今回、我々はJRが発行する「青春18キップ」を使用する。このキップはいわゆる「JR乗り放題キップ」である。ただし、この券では乗れない列車があったり、発売が5枚単位で切り離しが不可能といったような制限がある。
つまり、このキップ一枚で5人分。5人グループで1度に使用するも良し、もしくは1人で5回に分けて使用しても良し。1回分で1日中、日本全国のJR路線を0時から24時迄使用可能。途中下車可能。年齢制限無し。乗車可能な列車は「普通」と「快速」のみで、指定席を利用する場合は指定席券を別途購入する必要がある。というもの。
このキップは「JR企画券」と呼ばれ、毎年ほぼ決った期間に発行される。勿論使用期間も限定付きである。この辺りは詳しくないが、確か春と夏と年末年始に発行されてのではと記憶している。
利用するにあたっていろいろと制約があるものの、その発売価格が11,500円で、1回あたり2,300円という割安価格が、チープに旅行したいという人達に人気がある最大の理由である。時間さえ惜しまなければ、激安で旅行が出来るのである。
それにしても、恥ずかしいのはそのネーミング。いったい誰がつけたのか。窓口で「青春・・・」と切り出すのは結構恥ずかしかったぞ。
W氏は以前からこの18キップを利用しているそうだが、私は初めてである。今回のような東京行きの夜行電車を利用する場合、最初から18キップを利用するのではなく、名古屋から出発する場合はひとまず「安城」迄の乗車券を買うが『ツウ』のやりかたなのだそうだ。
というのも、18キップは改札などで入鉄したその日だけしか利用できないので、名古屋から利用開始してしまうと正味20分くらいしか利用出来ない事になる。この電車が日付を越すのが丁度安城なので、ひとまず安城までの乗車券を購入し、いったん日付を越えてから18キップの使用を申告するというもの。そうする事によって、翌日は正味24時間乗車が可能になるのである。
そういう事情で、日付が変更されてから車掌が検札にやって来るという話だったが、とうとうこの日はやって来なかった。この電車の東京駅到着時刻は4時42分である。既に寝る時間があまりない。そういう事を気にしてか車内は次第に静かになり、我々もいつの間にか眠ってしまったのであった。それにしても、新型のシートは格段の進化である。これならば安心して人に勧めることができる。
無事東京で乗り換えに成功し、電車はついに仙台に到着。
次号 初めての仙台には何が待ち構えているのか?
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東北ぐるり一周18きっぷの旅 1998 その2
■東北ぐるり一周18きっぷの旅 1998のインデックス
<その1> 東北計画が発動し、いよいよ名古屋を出発する。←今ここ
<その2> 電車をひたすら乗り継いで仙台に到着。
<その3> 超有名観光地の松島にやって来ました。
<その4> 三陸鉄道を乗り継いで八戸のカワヨユースへ。
<その5> カワヨユースでは快適な温泉三昧。
<その6> 青森で飯を食べそびれ、弘前でリベンジを。
<その7> 憧れの五能線に乗って黄金岬不老ふ死温泉に入る。
<その8> 秋田と酒田で途中下車し、電車は新潟に向かう。
<その9> 新潟で省エネ観光し、憧れの寝台急行で帰宅する。
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