2014年09月07日

四国半周18きっぷの旅 2000 その7


山劇トラベルシリーズ


何も期待していなかっただけに楽しかった内子


 内子の駅は、予讃線のバイパスとして新設された高架下に、コバンザメ状にくっつけただけという様な何の変哲もない駅である。しかも普段は無人駅らしい。

 駅前はただの新しいだけの広場だし、土産屋はおろか飲食店の一軒も見当たらない。観光案内所も無ければ当然観光パンフレットすら置いて無い。

 大体からして駅前に人の姿すらなく、電車から駅に降り立ったのが我々二人だけというのはどういう事なのだろうか。ただ、辛うじてタクシーが1台だけ駅前に待機していた。

 こーいう状況からして、観光として期待しろという方が無理があるのではないか。少なくともその時はそう思った。

「何もありませんね。」
「とりあえず行きますか。」

 ここですかさず時計を見る。次に乗る電車は13時08分で、滞在時間はあと3時間12分しかない。一見時間があるようだがこの間に昼食をとることを考えると、案外余裕が無い。

 手元の参考書によると内子駅から徒歩で10分程のところに古い町並みが存在しているという。誰も居ない駅前を出発してとぼとぼ歩き、其の先にある角を曲がって町のメイン通りに足を踏み入れると突然状況が一変した。

 何やら色とりどりの飾り付けが道路を横断している。通りは通行規制されて歩行者専用になり、交通整理の警官までが出動している。途中で貰ったビラによるとこの日は七夕まつりだったようだ。全く運がいいのか悪いのか、今迄一人として居なかったのに、急に人出が多くなってきた。

「混雑してきましたね」
「歩きづらいですね」

 今迄誰も居ないと散々ほざいていたのに、今度は人が多いと文句を言うのである。自分勝手なものである。

 都合が良いことに、先程のビラには町の簡略な地図が書いてあって、観光のポイントがさり気なく表示されている。何も知らない者にとって些細ではあってもこういう案内が有難い。

 そのビラに従って最初に行ってみたのが『内子座』。ここは古い造りの芝居小屋といったたたずまいで、現在でも演劇や芝居が催されるという。中に入るのは有料らしい。

 しかし、あんまり時間が無いという理由(ホントはお金が勿体ないという理由かも)で中に入るのは諦めたが、横の小路に回るとたまたま偶然窓が開いていたので覗いたら、中は意外に広くて由緒ある造りになっている。舞台には花道が用意されていて客席は升席という構造になっていた。中に入るに越したことはないが、とりあえずこれで充分観光した気分になった。

 七夕飾りにすっかりとカモフラージュされてしまっているが、メインの通りの町並みを観察するとそれはそれで味がある建物が軒を連ねていて、看板の類いも年期が入っている。飾り付けが無ければ無いで絵になる町であろう。


写真撮影傾向の違いが明らかに


 我々は『電車』という目的の他にも『写真』という目的もあって、何かあると足を止めて撮影している。おかげで歩く進行速度が極端に遅くなってきている。しかもお互いに撮影する興味の対象が違うものだからその速度でさえちぐはぐになってしまうのが玉にキズではある。

 自分の撮影はどちらかというと行動の記録といった感じで、主に行ったトコロの情景が良くわかるような写し方をする。奥行きがある道路とか、小路とかを撮影する。今回は屋根瓦も特別撮影対象の仲間として採用した。

 というのも、この辺りの屋根は昔ながらの手法できっちりと造られており、地方色豊かな鬼瓦で飾られている。この日は快晴で空が抜けるような青さだった事も手伝って、屋根だけでも絵になるのである。

 トコロが相棒のオヤジはどうやら『芸術』のセンを狙っている。同じ屋根を撮影するにしてもその一部をキリ抜くという構図主義的手法を採用しているようだ。

 しかも他の観光客の姿格好とか人数とか持ち物とか配置とかを考えてやがるので、一つの場面でやたら時間がかかる。ある時など道路の真ん中でカメラを覗いて構えたままいつまでもじっとしているので、他の観光客が通っていいかどうか困ってしまっていた。かといって人の撮影なども気にしない。自分の撮影が終わると、僕がカメラを構えている前へ平気でスタスタとしゃしゃり出てくるのである。おかげで僕の写真に写ってしまったオヤジの姿は少なくはない。

 大体が、そういう撮影を好んでするくせに姿格好とカメラがよくない。少しはカメラマンらしい格好でもしていれば、黙っていても他の人が勝手に気にしてくれるものを、ジーンズにアロハという歳を考えない姿をしている。カメラはリコーのGR1という超薄型の小型コンパクトであり、少しは詳しい人ならば10万円もする高画質を誇る高級カメラだと気がつくかもしれないが、フツーの人には只の安物コンパクトと見分けがつかない。

 そういう姿格好で小型カメラを両手に持って、町を往く親子連れとか着物姿の幼児とかに接近するものだから怪しまれるは逃げられるはで、後ろから見ていると面白くて仕方がない。とにかく、全く他の人の迷惑を顧みないのである。

 話題がそれてしまった。とにかく、そういう賑わいの中を歩いて行き、途中から目的の旧街道へと曲がるとそこは時代劇映画村のようであった。長さにして300
 メートル位の間、道の両側の家と造り、壁の類いが完璧に保存されているといってよい。

 通常、観光名所としてガイドブックに載るのは町の中の唯一の建造物のしかも一番良い角度を捉えている場合が多い。例えば北海道の時計台や北海道大学のポプラ並木が解りやすい例で、どの写真を見ても同じ角度の写真しかない。あれは何故かというと『あの角度からしか撮影できない』のである。かつて実際に時計台の実物を見てボーゼンとした。パンフレットの写真を見て誰があんなビルの谷間にひっそりと建っている姿を想像出来ようか。

 トコロがここ内子では全く違う。まさに見ごたえ充分。どちらにカメラを向けても絵になる。まさに予想外とはこのこと。ここだけで思わずフィルムを2本遣い切ってしまった。しかも実際に公開されているのはほんの数軒であり、残りは人が住んでいるのである。

 さて、いつの間にか昼になった。多分また食べないと言い出すんじゃないかなとは思いつつも一応尋ねてみる。

「お昼どうします?」
「ん~、僕は待ってるから食べてきてよ。」
(「やっぱし・・・・」)

 思った通りの返事が返ってきた。という訳で、次の集合場所と時間を決めてから別れた。それから町の中の大衆食堂風の店に入って、またしてもざるうどんを注文し、未だ時間が合ったから一人で街道をうろついていたら、途中の道で合流してしまった。

「そういえば、写真コンテストがあるらしいですよ。」
「今日の様子を写真に撮って郵送すればいいらしいですよ。」

 どうりで張り切っていたわけだ。普段もそうかもしれないけど。ちなみに後日見せてもらった写真の中に1枚オモシロイ写真があった。写真の中の着物姿の幼児がこちらを怪訝な顏で睨みつけているのである。W氏は嫌だと言ったけど僕はこの写真が一番気に入った。

 このくそ暑い中よく歩いた。のどが渇いたと言ってはかき氷を食べ、小腹がすいたと言っては焼きそばを食べ、団子を見つけては購入して歩いた。僕だけ。
 
 そうしているうりに電車の時間がやってきた。何だか多少後ろ髪が引かれる気がしたが、そのまま駅に戻って、おなじみステンレス車両に乗り込んで次の目的地、伊代大洲に向かったのであった。




次回は伊代大洲に向かう。
旅も佳境に進むに連れて、次第に性格の違いが露になっていく。
よくもまぁケンカをしないものだと思うのである。

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posted by サンタ at 11:46| Comment(0) | 山劇トラベル | 更新情報をチェックする
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