2014年09月07日

四国半周18きっぷの旅 2000 その5


山劇トラベルシリーズ


漱石が愛した松山は坊ちゃんの町だった


 午後5時42分、やっと松山に到着した。駅から出ると先ずは市電を探す。ガイドブックによると、今から行こうとしている道後温泉は徒歩では日が暮れる、とある。もう既に夕方であるからいずれにしても日が暮れるのは時間の問題だが。
 
 通常、道後温泉へは市電を使用する。ガイドブックによるとJR松山駅から16分の終点で降りるとある。僕たちは迷っている時間も無いので、速やかにその通りに実行する。
 
 路面電車に乗るのは久しぶりでもないが、僕が生まれ育った名古屋市内から路面電車が姿を消してからはかれこれ20年程たつのだろうか。今でもこうした路面電車に乗るとうどこかウキウキした気分になる。

 がらすきの車内で右に左にゆられながら市電はノソノソと走って松山城を過ぎ、県庁を過ぎ、なにやら土手のようなものが見えてきたら、その先が終点「道後温泉駅」である。その間、何本もの電車とすれ違ったりしたので、本数はかなり頻繁にあるとみてよいだろう。などと考えているうちに電車は駅に到着した。

 空はかなり明るい筈なのだが、雨がしとしと降り続いてなかなか止むことが無い。

 「どうします? 先に風呂にします? それともメシ?」

 この日宿泊する予定のユースは、このすぐ近くである。どうせブラブラと散策することになるので、それならば先にユースへチェックインだけしておいて、それから温泉へいきましょう。となった。

 「雨、止まないねぇ。それどころか、降りが強くなってきた。」
 「僕はこれくらいは平気です。」
 「平気ったって、結構降ってるよ、これ。」

 先程までは雨は降ったり止んだりの繰り返しで、そのあたりの曖昧な状況が傘を買うという行動を起こさせなかったが、今ははっきりと傘が欲しいという状態であった。
 
 ユースは坂を昇った先にあり、外観はペンション風の立派な建物だ。が、一旦中に入ってよく眺めてみると、どちらかというと『青少年会館』といった感じがする。宿泊者は多いはずだが、広間に居るのはほんの数人しかいない。
 
 我々は取りあえずチェックインをした後、指定された部屋に荷物を置き、軽く着替えてからユースを後にした。


いよいよ道後温泉に入るぞ


 目指す道後温泉本館は、坂を下りたところを右に折れた先にあった。総木造瓦葺き3階建て火の見櫓付きという外観は、さすがは温泉の名門だけあって、由緒ある立派なものである。
 
 実はこの温泉こそが漱石が愛用し、小説『坊ちゃん』にも登場したという温泉で、その小説に登場する部屋を再現した小部屋が3階にある。。

 「さて、それでは参りましょうか。」

 普通ならばっさっさと入浴券を購入してからさっさと入るトコロだが、入浴券売り場の前で動きが固まってしまった。

 「入浴券が4種類ありますよ?」
 「何がどう違うの??」

 料金表を前にして固まること数分。やっと理解できた。まず、一番エコノミーは300円で、これは『神の湯』の入浴のみ。次の料金は620円で、これは『神の湯』の入浴に、2階の休憩室利用込み。休憩室では浴衣が貸し出され、お茶と菓子が供されるという。
 
 その次が約1200円。何故値段に『約』がついているかというと、正確な数字を思い出せないからである。細かな事を気にしてはならぬ。この料金は入れる温泉は『霊の湯』といって温泉が違う。どこがどう違うか説明しろと言われても解らないが、値段からしてワンランク上の温泉だと推測される。休憩室も2階大部屋とは少し違い、位置も少し高く、ワンランク上を主張している。貸出し品も一品増えてタオルが追加され、菓子の方も『坊ちゃん団子』がついてくる。
 
 そのまた上のランクがある。これは基本的に温泉迄は1200円コースと同じであるが、休憩室が3階個室となる。部屋の位置的にも最上のランクである。約2000円。ここでも値段に約がついているが、気にしてはならぬ。
 
 言い忘れたが、この道後温泉本館ではお泊まりは無し。昔はあったかもしれないが、現在では完全に銭湯と化している。

 「620円のコースを一つお願いします。」

 僕は何が何だか解らなかったが、W氏の勧めで300円のエコノミーコースよりもワンランク上の620円コースを申請したのであった。

 「この廊下の突き当たり左側の階段を上がって係の人の指示に従
  って下さい。左へ左へと進んで下さい。」

 今にも底が抜けそうな廊下を進んで行くと途中に300円エコノミーコースの入口がある。大部分はその入口から温泉に突入するのであるが、我々はワンランク上であるから、そのまま進み、突き当たりで左側の階段を上る。
 
 階段を上がると、再び受付けのような構造になっていたが、先程の言葉を思い出し、左へ左へと進路を変更した。
 
 その先には畳敷きの大広間があった。相当広い。その広間に入るとその係の人の案内で空いている場所へと行き着いたのであった。その場所は一人当たり約1畳が提供されており、そのテリトリー内には何やらフタが無い木箱と座布団が置かれてあり、中には浴衣が収められている。

 「ここで着替えて下さい。浴衣は下着の上に羽織って下さい。」
 「衣服はこの箱の中へ。貴重品はこちらの箱へ入れて下さい。」

 そう言って、更に小さな引き出しのような木箱と銅製らしきブレスレットを手渡された。どうやらそのブレスレットがワンランク上の証明書らしく、手にはめて温泉へお入り下さい。というらしい。

 「ここで着替えてくれと言われても・・・。」

 その休憩室の中を見渡すと男性ばかりではなく、女性の姿も多い。この休憩所は男性専用ではなく、混休憩室となっている。ただし、女性専用の更衣室は別にあるが、男性のは無い。つまり此処は、混休憩室兼男性更衣室となっているのである。
 
 よく見ると、着替えている女性は皆無だが、着替えている男性は多い。もうこの際だから潔く諦め、さっさと着替えてから貴重品を係に預け、タオルを片手に先程上がってきた階段とは別にある温泉直結専用階段を降りて行くと、その階段の下にはワンランク上専用衣服置き場が用意されてあった。その服置き場からもう一歩中へ踏み入れると、そこが先程横を通過したエコノミー専用更衣室であった。

 温泉とは言うものの、構造は銭湯そのものである。浴室はさほど広くはなく、割と薄暗い。天井部分には明かり取りがあるので、昼間ならばもっと明るいかもしれぬ。湯船は一つで堅牢な石造りになっている。湯は熱めで無味無臭。日頃ぬるめの湯を愛好している僕としては多少つらい。

 充分に暖まってから休憩室に戻る。エコノミー更衣室もそうだったが、ワンランク上休憩室にも天井式扇風機はあるが冷房施設は存在しない。其のはず、2階休憩室は下界に向かって完全オープンエアになっている。天然自然風冷却方式を採用しているのである。

 先程充分に暖まってしまった体を急いで冷やさねばならぬ。滝のように流れる汗が止まらない。こういう時の浴衣は大変便利である。浴衣が無いと、Tシャツが汗まみれになってしまうのである。

 体を冷却しながら菓子とお茶を頂いてから、そのまま帰るふりをしていろいろ眺めてきた。われわれよりもワンランク上の休憩室は、最初左へ左へと進んだトコロを右へ右へと進んだ先にあり、1メートル程高くなっている。でも、休憩室としての風情というか、休憩しているという実感がある。


そういえば、何も食べていないのに気がついた


 こうして外に出ると、外は既に真っ暗であった。途端に腹が減ってきた。今日のユースでの食事を申し込んでいないので、どこかで晩飯を食う必要がある。

 「腹が減りましたね。どこかうどん屋へ行きませんか。」

 道後温泉本館へ来るときは通らなかったが、道後温泉駅からここまでアーケードでつながっている。アーケードの中はいわゆる土産屋ばかりで、目的のうどん屋が見当たらない。それでも食べたい一念でうどん屋を探しだした。

 「さて、はいりましょうか」
 「いや、外で待ってますから・・・」
 「?????」

 結局うどん屋へは自分一人で入ることになった。その後もいろいろあったのだが、飯を食べないのである。このオヤジは。今回のユース宿泊の食事を外した件でも時間の都合で間に合わないからではなく、元々食べない。というのが正解みたい。
 
 それにしても仕方がなく一人で入ったうどん屋は旨かった。ざるでしか注文しなかったが、柔らかいのにコシがあるという四国独特の麺であった。思えば四国に入って初めてのまともな食事である。注文してからの間が手持ちぶさただったが、うどんが旨かったので許す。

 うどん屋を出てからはのんびりとアーケード街を丹念に冷やかして歩いた。本日の予定は全て終了である。宿も確保されている。寝る場所も確保されている。夜の9時近く、のんびりとユースに向かって歩いていたその時。

 「こんばんわ、今晩、どお?」

 突如、薄暗い通りのさらに闇の中から女性が現われた。どうやらアノ手の勧誘らしい。少し明るい場所で見ると、すっごいおばちゃんであった。我々はスタコラとその場から逃げ出したのであった。

 ユースに戻ると暫くは部屋に戻らずに談話室で過ごし、翌日の時間が気になった頃に部屋に戻り、早々に眠ることにしたのである。そてにしても布団ってのは有難いねぇ。背中が痛くならないし。きっちりと眠れるし。今日はきっと疲れている筈である。知らない間に眠っていたようだ。それにしてもエアコンが少々寒かった。




次回は四国2日目。
何も予備知識が無いので、お任せ的お手軽観光デーである。

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posted by サンタ at 10:52| Comment(0) | 山劇トラベル | 更新情報をチェックする
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