山劇トラベルシリーズ |
尾道は時をかける町である。
尾道というキーワードで僕が連想するのは、先ず『時をかける町』という事。かの大林監督が手がけた映画の数々が、この尾道。もしくはこの周辺地域で撮影されたのである。
その映画によって尾道は余すところ無く紹介され。今や全国区的な観光地。というイメージがあった。映画によると、尾道は坂が多く。それが果たしてどれらい多いかと言うと、なにしろ上り坂と下り坂が同じ数だけあるとも言われている程多いのである。
『放浪記』で名を馳せた小説家の林芙美子も尾道が出身だという。その証拠に商店街の入り口には銅像が建っている。商店街の中には『芙美子』という喫茶店もある。その喫茶店はかつて女史が住んでいたという縁ある家だという。・・・入らなかったけど。
先程うどん屋の中から頂いてきた観光ガイドによると古寺が多く存在していて、古寺めぐり小路なる歩道が整備され、古寺ファンには堪えられない地域らしい。
とにかくその程度の知識しかないし、1時間半程度しかない時間に縛られている事もあり、何はともあれその足早にその迷路のような小路に足を踏み入れたのであった。
こと観光に関しての段取りはW氏にお任せとなっている。氏の「あっち「こっち」という指示に従って歩くのみとなっている。W氏というガイド付きであるので、今回の観光は何も考えなくても良い。とてもラクチンである。
この散策小路は坂の住宅地を縫うようにして続いていて、登り下りが激しい上に右に左に曲がっている。だが、地面には丁寧に石畳で舗装されているので迷うことはない。しかし、1本でも道を外れようならそこは既にラビリンス。その道の先が何処に続いているのか皆目見当がつかない。でもそういった何気ない小路に、大林監督の映画の中で見られたような坂道がある。確かにこらで撮影が行わ
れたのである。
「ちょいと休もう」
朝、家を出発する時には雨交じりのどよんとした曇りだったのが、こちらではきっちりと晴れてしまったのである。雨が降っているよりは降っていないほうが良いに決まっている。でも、この暑さでこの坂はきつい。1時間もたたないうちに汗だくになってしまった。
眺めがいいその寺の境内からは奇麗な海が見える。と、思っていたのだがこれは間違い。実際には島がすぐ眼前に迫っていて、薄い海には造船所が群れをなしている。ここ、尾道からは海を鑑賞することが出来ない事は、訪れてから初めてわかった。
それから数件の寺と志賀直哉邸を眺めてから後、下界に降りて商店街を冷やかしてから桟橋に向かった。そこには林芙美子が佇んだという石段がある・・・筈だった。
到着した桟橋付近は現在護岸工事が行われていて、写真で見ていた目当ての石段は殆ど姿を消していた。果たして石段は復活するんだろうか。それとも味気ないコンクリの護岸に変貌してしまうのだろうか。我々はため息を交えながらさみしくとぼとぼと尾道駅に戻っていった。
尾道は現在、あの駅前の雰囲気といい、桟橋付近の変わりようといい、『坂のある町』ではなくて今や『しまなみ街道』の方に力点の基本が入っているようである。あの駅前の雰囲気は、どう見ても『町』の方を向いていない。そして建物としての特徴が全く見られない。最近はこういった無国籍的パビリオン的建物が多いぞ。これも一つの方向だとは思うけれど、そういった例を数多く目撃してい
る僕としては、何かさびしい思いがする。
身近な例で言うと『JR岐阜駅』。駅としては確かに奇麗になった。器も大きくなった。新しく店舗もできた。でもね、それが全然面白くないんだよ。建物が岐阜を象徴していない。
そういう寂しい気持ちに浸りながら、バス停に向かう。次の目的地はいよいよ四国である。しかしながらここ、尾道から四国へと渡るにはわざわざ岡山迄引き返してから瀬戸大橋線に乗り替えなくてはいけない。
それはかなりの大回りである。時間もかかる。そこで目を付けたのが今年の春に開通した『しまなみハイウェイ』である。しかもその道を通る高速バスがあり、尾道と四国の今治を直結している。料金は2200円と、18キップ一日分2300円と比較すると多少高額に思うが、この際バスの旅も良かろうと、このバスを利用して四国へ飛ぶ事にした。
「面白くない。」
我々が出したしまなみハイウェイの結論である。ただしこれはバスに乗って、という限定付きの感想である。バイクで走るときっと感想は違うにちがいない。
何が面白くないかというと、『間』が開きすぎているという事。この一言に尽きる。確かに橋だけは開通したとはいえ、その橋のひとつひとつは瀬戸内海を渡る橋としては小粒な印象であり、その橋を越えたらすぐに山の中に入ってしまうし、山の中の未開通部分は国道を走るのでそれが余計に面白くない。
そんな気持ちを反映してかいつの間にか曇り空になり、雨が降ってきたのである。そんな憂うつな外を眺めていたら、いつの間にかうとうととしてしまい、気がついたら今治駅に近付いていた。
「うーん、雨が止まないねぇ。」
今治駅に到着すると、雨脚が一段と激しくなった。文字通り土砂降りである。しかし我々は今からは再び列車で松山に向かうので、取りあえず雨は関係ないとも言える。
まるでしまなみハイウェイの開通に合わせたような場違いな駅のホームに入ってきた列車は、2両編成のステンレス車両だ。しかもワンマン列車。それよりも変わっているのは後ろの車両に自転車を乗せていること。もしかして、この時だけかもしれないが、自転車をそのまま乗せている列車を初めて見た。
空はかなり明るくなり、時々日も差しているのに関わらず雨はしとしと降り続けている。本当に晴れそうな天気なのに。
17時42分。列車は定刻通りに松山駅に到着した。今日はここ、松山のユースで宿泊する手筈になっている。長い一日であった。と、佇むのは早計である。今から道後温泉に入る段取りになっているのである。
坊ちゃんの町、松山。
漱石も愛したという道後温泉とは果たしてどんな温泉か?
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