楽しいバイクは危険な香りがする
とりあえず、時代背景の思い出から入りましょう。
4気筒のNRから3気筒の2ストNSへと主力を移したホンダは、移行組の片山、フレディーに、ロケットハスラム、暴れん坊ランディー、モリワキから移籍したガードナーを加えた強力陣で、ヤマハの王者ケニーに挑み、確か83年(記憶あいまい)、ついにホンダが勝利を勝ち取り、その後ケニーは引退したのでした。
その翌年、NSRがデビューしたものの、1号機(タンクを車体下に取付けたもの)は失敗。シーズン半ばにして2号機(チャンバーが奇怪に組合わさったもの)に切り替わったものの、ポイント不足で残念ながら優勝はできませんでした。
そして85年、フレディーは500ccクラスに加えて、新たにRS250RW(フレディー専用仕様)で250ccクラスへも参戦し、なんと2階級同時制覇を成し遂げてしまったのでありました。
こんな背景を背負って登場したNS400Rのエンジンは当然ながらV型3気筒。色はトリコロール。シリンダーは前が2気筒、後ろが1気筒というレーサーとは逆のレイアウト。それはいいんだけど、その後ろの気筒のチャンバーがね、ちょうど座るシートの真下を通 っていて、お尻の下でボコボコと振動するのがわかる。そのため、座布団のようなペラペラのシートに下にヒーターが付いているようなもので、冬はあったかくていいけど、夏は股下がすごく熱くなって汗だくになってしまうのさ。
アイドル状態の排気音は、「カタカタ」という音と、「ガサゴソ」という音が合わさったような情けない音なんだけど、回転を上げるとNS特有の「ブワーン」という音に変わる。が、走り込むにつれ、排気音が「カカカカ」「カーン」というむっちゃんこ耳障りな音に変わってしまった。友人に言わせると「数キロ先から音が聞こえる」そうだ。(後年、メーカーからリコール通知が来て、マフラー交換になった)
外観は横から見た限りNS250Rとほぼ同じ。サイズも250よりは少し横幅があるかなという程度。事実、パーツカタログを見ると250と共通部品が多いのに気がつく。タイヤは前後16インチでホイールは特徴のある「NSコムスター」ホイール。私はこのホイールが一番のお気に入り。
フレームは角形アルミパイプ。鋳造部分がごく少なくてクリア塗装しただけの何の飾り気ない程よい太さのアルミフレームは。まるで手作りみたいに見えて、品質の高さを感じる(最近、ミョーに太かったり、鋳造部分が多かったり、バフ仕上のフレームがあるが、かえってバランスが崩れて見える)。
V型エンジンのシリンダーは通称「NSシリンダー」と呼ばれるスリーブが無いメッキタイプ。チャンバーには「ATAC」というデバイス(今でいうとRCバルブってやつ)がついている。
パワーは「まいった!」の一言。今まで味わったことの無い空前絶後の加速は、250並の軽量車体をあっという間に超危険速度域に叩き込んでくれる。そんなとき「そんなバイクに乗っとると死ぬぞ」という友人の声を思いだす。
しかし、順応力ってものは恐ろしいもので、この超加速が普通感覚になってしまった。怖いもの見たさで最高速度を試した事もある。すると、NSはメーターを軽々と振り切り、タコメーターの針がレッドゾーンに入ってもなお猛烈に加速していくのであった。
あの当時、NSのようなハデな類を見ない車体色は他には無く、どこに行ってもよく目立つ。結果、後ろにくっついてくるバイクや車も後を断たなかった。そんな時は、そっとギアを2段落とし、ブワッという煙幕を残してあっという間に走り去ってやることにしている。私はそれを煙幕の術と呼んでいた。
この頃は、まさに「若気の至り」ってやつで、いろーんな各地の峠に出没し、ローリング族(死語)まがいの事をして楽しんでいたが、幸いにも免停になった事や転倒は一度もない。
というのも、その頃もまぁとことんビンボーだったし、下手に転倒させたら修理代が出てこないし。という事で、無理はしたけど無茶はしなかったのでした。峠でもコーナーで先行車を抜くような事はせず、後ろにぴったりくっついておいて、コーナーを出てから絶対パワーに物を言わせて直線で抜くという大人げない走りをしてました。(笑)
そんな走りをしていた為か、信じれないほど燃費が悪くてね。通常走行でリッター10キロ走らない。ひどいときには7キロ位に落ちた事もある。こんな燃費なんで、遠くへツーリングなんてまるで考えられなかった。ガソリン代が勿体なくて仕方がなかったんだわ。
一般に燃費が悪いのはハズレだと言うけれど、案外アタリだったのではないかとも思う(何の根拠もない)。でも、オイル飛びは排気口周りが少し汚れる程度で、ほとんど皆無だったのはありがたかった。同じ3気筒のMVXは「鼻たれ」と呼ばれていたのにね。
こんなNSを駆使して普段は愛知、岐阜、三重の中で走っていたが、一度だけ箱根に行った。快晴の富士が美しかった事を憶えている。
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