ビールの会場に入る時は気が付かなかったが、その特設会場のすぐ隣に、『現代アート展』がやっていた。
「うん、やってるやってる。」
一般的に、この手の展示会は「展示会」という名を借りた、「即売会」として世間では認識されている。(されてないって?)
まぁ、いろーんな噂があるから、今迄近寄りもしなかったのだが、その日はビールを飲んでいて、少し気が大きくなっていたのも手伝って、「よぉーし、ついでにヤマガタでもラッセンでも観ていこうじゃあないの!」などと気合を入れて、単独でその会場に足を踏み入れてしまった。
会場は思ったよりも広く思ったよりも客が居なかった。一瞬シマッタとも思ったが、もう後には引き返せない。何気ない顔をして展示してある絵を順番に見ていく事にした。すると、いつの間にか斜め45度右側後方にきれいなおねえさんが立っている。目が合った瞬間、一度入ったら逃がさないぞ!というようなネチネチ光線を、あくまでソフトに投げ掛けて来るのだった。
「うっ、これが噂の・・・」
という思いが頭の中をグルグルと巡ったが、そこは酔っぱらいの強み。
「いい絵ですねーーー、今日は見てるだけですから!」
と、わざとらしく棒読み調に強調して、降りかかる視線を振り払った。しかし、それしきで引き下がるお姉さんではない。
「貴重」
「またとない機会」
「1枚は持つべき」
「お買い得」
なーんていう言葉を斜め後方45度から機関銃のように投げ掛けてくる。
「今だと金利が安く・・・」
と、さりげなく返済の仕組みを説明し、
「1枚だけ差し上げるとしたら、どれがいいですか?」
「どうぞお座り下さい、こちらで説明いたします。」
適当に「コレ」と返事するとなんとその絵を下ろして、会場真ん中のテーブル前のイーゼルに掛け、更にタイミング良くコーヒーが出てくるではないの。この手際の良さは只者ではない。
イカン、イカン、イカーン。ここで座っては相手の思うツボ。この作戦は断 固阻止しなければならないと酔った頭で考えたワシは、
「あ、あの絵がいいね!」
これまたわざとらしく叫んで、その場を無事離脱したのであった。それからしばらくは、おねえさんがついてこなかったので、わりとゆっくりと絵を鑑賞し、大体一周した頃、再び例のおねえさんがやってきて、「コーヒーいかがですか?」と聞くのだが、ここもきっぱりと「すいません、今から仕事ですから!」と言ってやり過ごし、そそくさと会場を出たのであった。
こういう危ない場所に長居は無用。見るものを見たらさっさと退散する事が1番の得策である。ビールに酔って足元がフラフラしてるのに、仕事!ってのも無いものだ。自分ながら笑っちゃうよね。
- 山劇 No.125 クックパッドの新サービス「Holiday」について
- となりの山劇 No.143 怪しい業界用語辞典 その2
- となりの山劇 No.142 怪しい業界用語辞典 その1
- となりの山劇 No.141 桃色印のお仕事 その8
- となりの山劇 No.140 桃色印のお仕事 その7
- となりの山劇 No.139 桃色印のお仕事 その6
- となりの山劇 No.138 桃色印のお仕事 その5
- となりの山劇 No.137 桃色印のお仕事 その4
- となりの山劇 No.136 桃色印のお仕事 その3
- となりの山劇 No.135 桃色印のお仕事 その2
- となりの山劇 No.134 桃色印のお仕事 その1
- となりの山劇 No.133 むふふなお仕事
- となりの山劇 No.132 怪しいお仕事
- となりの山劇 No.131 アダルトなお仕事
- となりの山劇 No.130 車が無い生活
- となりの山劇 No.129 話にならない話 その12
- となりの山劇 No.128 話にならない話 その11
- となりの山劇 No.127 話にならない話 その10
- となりの山劇 No.126 話にならない話 その9
- となりの山劇 No.125 話にならない話 その8