まず肝心なのはターンテーブル。これはベアリングなどの回転精度がしっかりしていて、きっちりと芯の精度が出ている事は基本中の基本だが、重いほど良いとされている。ちなみにSさんは金色した砲金製で5センチもの厚みのあるターンテーブルを用意した。こんなもの何処で売っているのだ?
次にそのターンテーブルを回すモーター。現在ではDD(ダイレクトドライブ)方式が主流だが、当時のマニアは別モーターを設置し、ターンテーブルとモーターを糸で繋いで駆動する糸ドライブを良しとしていた。次にアーム。形はストレート型とかS型とか、いろいろな型が存在する。Sさんはサエクのストレートアームを用意した。次にカートリッジシェル。シェルとは、カートリッジを取付けるベースの事だ。これは通常アルミ製だが、こだわりの人はマグネシウム製を重用した。更には長いとか短いとか、重いとか軽いとか様々な形状や組み合わせを用意し、試行錯誤していた。
この次にやっとカートリッジ本体になる。ふうッ、やっと針の話になった。そのカートリッジにしてもMM型とかMC型など様々な発電形式があり、マニアは中でもより繊細な音を再現するというMC型を尊重していたようだ。さらに連中は針先の形状にもこだわる。連中はとりあえず接合型の廉価な針を論外とし、基本はダイヤモンドのソリッド物。円柱型、角柱型、もしくは楕円型の針を求めたのである。もっと細かな事を言うとダイヤモンドの針先を固定するベースの素材や材質、発電部のコイルの巻き方・・・・・もう止めておこう。とにかくこだわり出したらきりがなく、結局は正解が存在しない世界だという話である。
忘れてはいけないのが、カートリッジとアームを結ぶ短いコードである。通常購入時、シェルに付属しているコードはさっさと捨て去り、即座に新たにゴツいコードに取り替えられる。この銅製のコードは、純度が高いほど良しとされ、OFCなどの単結晶物が採用された。ゴツくて短いコード程喜ばれるのである。
これでパーツが揃った。これだけではまだまだ未完成。これらの構成品をまとめるベースが必要になる。Sさんは試行錯誤の結果、重量圧縮合板を接着積層し、これに穴をくり抜いてベースとして採用していた。土台にはアームベースが3つも取付けられ、振動を押さえつけるインシュレーターなどのアクセサリー類も山ほど持っていた。そして、Sさんちは他のオーディオ製品もそれなりの見事な揃え方がしてありまして、その再生された音はさすがと言うべき見事なまでにクリア。「目の前で演奏している」風景が手に取る様に再現されたのでした。
レコード1枚にこんなにもの音が入っていたのかと思う様な衝撃的な体験でした。これに対し自分のシステムはDENON(デンオン)の既製品プレイヤーに、これまたテクニカの安いVM型カートリッジを取付け、これで十分に満足していたのでした。
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