翌日。目が覚めると既に体中が痛かった。中でも腰の痛さが半端ではなく、どんな姿勢で寝ていても痛い。あまりにも全身が痛いものだから、もしかすると立っている方が楽かもしれないと、試しに起き上がってみる。しかしながら、起きてみたらもっと痛かったので、同じ痛いのなら寝ていたほうがマシという判断をして、再びそのまま寝ている方を選択した。それから次に、測るまでもないとは思ったが会社への理由釈明材料の一つにするべく体温を測る。
「39度~?」
普段熱なんか出したことが無いのに、いきなり39度である。これは参った。体温を測ってから改めて寒けがするという自覚症状までついてきた。これにも困った。数字で自覚する体にも困った。確か近くの医院は朝9時から開院であるが、体中が痛くて仕方がないのと、全身のだるさから、何だか行きそびれてしまい、結果 的に午前中の診察時間を自主的にボイコットしてしまった。無論、このボイコットには何の主義主張は無いはずである。
結局このままうだうだと布団の中で転がり続けているうちに、熱もじわじわと上昇を続け、ついには39度1分まで到達した。こうして熱にうなされている間に、いつの間にか午後の診察時間がやって来た。これは逃してはならぬ。医院までは歩いて10分もかからないが、恐らく歩行は不可能な筈なのでカミさんに車で送ってもらうことにした。診察室に入るとそこはジジババの園だった。近くの雑誌を眺めながら待っていると間もなく私の番になり、先生に現在の諸症状を訴えると、
「今から注射とを点滴します。準備しますからお待ち下さい」
いきなり点滴であった。なにしろ点滴である。私の中では点滴というのは何やら重病患者が入院しながら厳かに行うものである、というイメージがほぼ定位置に定着している。聞くところによると最近では割と気軽に点滴をやるそうだが、この時が初めてである。点滴と聞いて急にドキドキとしてきた。この時に聴診器での診察をやっていたら心臓病と間違われたかもしれぬ 。
待合室で待っていると名前が呼ばれ、処置室に入ると、看護婦姿のおば・・・いや、おねえさんが太い注射器を片手に待ちかまえていた。
「点滴前にこの注射1本打つんだけど、肩とお尻、どっちがいい?」
腕という選択肢は無いのか?とも思ったが、そのまま黙っていた。39度もの熱があっては何も考えられないのである。
「どちらでもいいならお尻に打ってあげて。よく効くよ。」
隣から診察の先生の有難い助言が聞こえてきた。注射を打つ場所がお尻と言うことに決定してから改めて、そういえばお尻に注射を打つのも初めてだという事に気がついた。お尻注射処女である。思い出すのが遅いって?
「それではここのベッドにうつ伏せになって、お尻を半分位出してね。
痛くないですからね。すぐに終わりますよ。」
いろいろ優しい声をかけてくれるが、とにかくお尻は初めてなので極度にキンチョーしてきた。乱暴しないで、優しく挿して欲しい。
笑うなかれ、針が刺さる瞬間目をつぶってしまったのである。しかし、痛みは予想よりもはるかに小さく、チクっとしただけで終わってしまった。いや、むしろその後の痛みの方が大きい。注射をした直径5センチ辺りの周辺が妙に痛いのである。何というのかな、かつて肩にほぼ垂直に針を刺す注射があったが、その時の痛みに似ている。とにかく、これが私のお尻注射の初体験であった。照れw。
続けて点滴に入る。今度は別のおば・・・いや、おねえさんが別室に案内してくれる。別室とは言っても軽くパーテーションで仕切られただけの小部屋である。そこにベッドが2基用意されている。
「ここに仰向けになって寝て下さい。右手と左手のどちらがいいですか。」
寝ている位置からして右腕の方がやりやすそうだったので、右腕を差し出すと、慣れた手つきで軽く止血して針を腕に刺し、いきなり点滴が始まったのであった。これまた初体験の点滴であったが、改めて体験してみると、点滴中というものは実に暇なのである。やることが全く無い。ただひたすら終了時間を待ち続けるしかない。こちらは熱でぼーっとしているのだが、こうして静に寝ていると院内のいろいろな声が聞こえてくる。中には女性特有の症状に関する話題があったりもする。別に好んで盗み聞きしている訳ではないが、やる事が無いから、ごく自然に耳に入ってしまうのである。
最近新聞などで、患者のプライバシーに関する問題とか、診察中の声が外に漏れると恥ずかしいというような投書とかをよく見かける。この点滴室?は辛うじて男女を分けてはいるようだが、目隠しをしてあるだけ、とも言える。別に医院の批判をしているつもりはない。この医院は、いわゆる町の医院である。○○市民病院といった大病院ではない。だからかもしれないが、患者と先生はすでに何年来という馴染みさんばかりであり、お年寄りにとてっては診察というよりも先生と話をすることによって安心する、という感じもする。また、患者同士もお馴染みさん同志であり、個人的機密漏洩が傍受によるものか自己申告によるものか、はたまた単なる無責任的伝達かは渾然としており、釈然としないのである。
とにかく、大変恐縮だがそのような会話が筒抜けなのである。これが良い事か、悪い事か、よく分からないが、それがここの医院の特色(?)である。しかし、こういう雰囲気は嫌いではない。だからこうして通院しているのだろう。約1時間後、点滴から開放された私は薬局で薬を受け取り、来たときと同じように迎えに来て貰ったのであった。
さてその後の話だが、寝る前に「熱が38度以上で服用して下さい」と言ってもらった解熱剤、早い話がバファリンを服用してから寝た。
翌日。起きてみると、何が効いたのか分からないが、熱がいきなり37度2分迄下がっていた。腰は未だ少し痛むが、全身の痛みもほぼ取れていた。しかし、今度は腹が痛いのである。恐らくこれは昨日から痛かったと思うのだが、それ以上に体中が痛かったから、気にしなかったのだろう。それが今度は痛みが腹に集中してしまったのである。これが常時痛いのだが、約30分置きに「キューーー」っと言う感じに痛み、我慢が限界に達するとトイレに走る。
だが、トイレに入ってもロクに食べていないのだから出るものも出ない。でも、痛みだすとどうしてもトイレに駆け込んでしまう。こんな腹痛ならそのうちに引くだろうとタカをくくっていたら、とんでもなく、夕方まで正しく30分置きに痛みだした。その日の午後の診察時間にも、私は医院の人となっていた。んで、やっぱりまた点滴をして帰ってきた。
とにかくね、腹が痛いとね、何にも集中できないんだな。本でさえも読む事が出来ない。テレビドラマにも集中できない。パソコンなんてとんでもない。とにかく、何も出来ない。が、熱は順調に下がってきている。その時37度ジャスト。
翌日。やっと土曜日である。結局会社は2日間休んでしまった。熱はすっかり平熱に戻った。腹の緊急事態も30分置きから1時間置きへとさらなる改善がみられてきた。もう一息である。そして、いつしか腹痛は無くなったが、なんとなく食べるのが怖いというか、また痛くなったらどうしようかと思うと、何となくご飯を食べそこね、その後4日間程はほぼ絶食状態が続いた。
それから順番にご飯の量を増やしていったら、1週間かけてやっと元に戻ったのでした。でも、腹痛だから・・・と言ってそのままダイエットするという手もあったな、と今さらながらにして思うのであった。既に手遅れ。 チャンチャン。
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