2013年02月02日

山劇 No.039 無言deバトル1

山劇/となりの山劇シリーズ
ようやく重い腰が上がったものの

 突然だが、家を建てる事になった。いや、正確にはカミさんの実家を建て直すといった方が正しいが。それで、義母といろいろと話し合った結果、恐らく近年のうちにこの家を建て直すのは間違いはない。しかし、今更慌てる事も無かろう。という事で、巷によくある『住宅展示場の建物を売ります。限定1棟。』というような募集に応募してみようかという話になった。ここで何故、カミさんの実家を建て直すのにわざわざ私がしゃしゃり出て、義母といろいろ話をせにゃならんのか。という質問にはお答えしない。いろいろあるのだ。いろいろと。

 そもそも正直な話、岐阜市内の長良川近くにあるカミさんの実家はかなりボロい。建物としては建てて35年というが、外観もさることながら、中を見ているかぎりはもっと古いようにも見える。
 しかも、義母はもう数年前から家の補修を諦めている。例えば入り口の建て付け。この扉はサッシの筈だが、力づくでの開け閉めは不可能である。しかし、自分よりもずっと非力な義母は何の苦もなく開け閉めが出来る。そして入り口を覆っている筈の屋根というか軒の部分。ここは多分半透明のプラ製波板の筈だが、まるで酸でただれたような穴が開きまくっていて、既に屋根の用を成していない。この家を訪れる人はまず、この状況を見てびびるに違いない。

 さらに昨年。義再従兄弟が洋室の扉に入っていたガラスを割ってしまった。この時に義叔母がガラス代を弁償しようとしたが、義母は受け取らなかった。普通 はすぐに直すだろうかと思うが、義母はそのガラスが割れて開いた部分にボール紙をあてがい、一年経った現在でもそのままになっている。それを見て、『義叔母さんに悪いよ』とは言ってみたりするのだが、どうやら直すつもりはみじんも無いようである。

 そのつもりで家の中を見渡すと、他にも襖やガラス戸も同じような処置が施してあり、こちらはさらに危険で、下手に寄り掛かると桟から外れて倒れてしまうのである。蛍光灯や電球にも投資していない。いや、これでも明るくなったのだ。

 「この部屋、暗いね。」

 暗く思えるのは、元々昔から使用しているので、蛍光灯の『円の口径が狭い』せいである。いつか私が何気なく呟いたのを聞いたのか、聞かなかったのか解らないが、客間の電灯だけは全て新品が入ったのである。それでもまだ暗い。

 「あれ、絶対に聞こえたんだってば。」

 カミさんはすました顔でそう言うが、もしそうだとしたらかなりバツが悪い。
 そういう状況の中、今年の秋にカミさんの実家で法事が執り行われたのである。法事はいつものように『ごく親しい親類』関係が集まり、寺の坊様をお招きするのである。そこまではいい。事件はその後の食事の時に起こった。

 「あんたんとこ、そろそろ建て直したらどお?」

 親類の中の誰かがそう言った。こういう話はいつも軽いジャブ程度でうやむやになる場合が多いのだが、この日は違った。

 「なんだかもう、直すのを諦めているみたいだし。」
 「あんたももう歳なんだから、早く新しい家に住んだほうがいんじゃない?」

 親類の長老達が口々に喋り始めた。こうなるともう止まらない。ここで言う『ごく親しい親類』というのは、私から見れば、例えが悪いかもしれないが、まるで妖怪のようなジジババである。あの方達から見れば私ごときはまだまだはな垂れコゾーであり、カミさんからもくれぐれも行動言動に注意するように忠告を受けている。ここで何か一言意見を出そうものなら、その10倍くらいは言葉が返って来そうな感じがする。ましてや逆らうなんて怖くてできない。100万年早いと言われそうである。

 「家を建てるなら、工務店を選ばんとな。下手なとこに頼んだら、いつの間にか倒産してたりしてな。」
 「知りあいに積水の建築士がいるから、一度頼んでみようか。」

 いつもはこの手の話題に口を挟まない男連中も、会話に参加してきてしまった。既に連続パンチ状態である。

 「私だっていつも考えてるんですよ。」
 「そーんな事言うけど、先立つ物が無いでかんて。」
 「お金があったらとっくの昔に建ててますて。」

 義母は親類の攻撃を巧みなスウェーでかわしつつもカウンターを入れていました。
 会食中は終始そんな話でした。この時の義母の表情はごく普通に笑っていたのですが、ありゃー絶対に怒っているな。大丈夫かな。と、横で会話を聞いていて思っていたら、まさしくその通 りで、皆が帰って身内だけになってから、

 「まーったく失礼しちゃうわ。」
 「口を出すならお金も出してくれるというのかしらん。」

 やはりかなり怒っていたのである。 それからひと月程たったある日のこと。

 「お母さんが抽選をやるって。」
 「え・・・?」

 何やらで『積水ツーユーホーム新築限定1棟特別販売』というチラシの広告があり、間取りもさることながら、770万円という価格を見て応募するつもりになったそうな。

 「何やら急な話やね。」

 やはり、先日の法事の時の話が多少はこたえたらしい。とはいえ、義母は前々から家を建て替える事はずっと本当に検討していた。ただ、いろいろな諸事情ってやつがあって、話を進めようにも進めづらい環境があったのである。いろいろあるのだ。いろいろと。

 さっそく義母といろいろ協議した結果。建前上は私の家族もそも家に住むという、いわゆる2世帯住宅を前提とする、という事になった。カミさんなどは間取りを見て、ここは子供部屋、私たちはここ。義母さんたちはここ。2階にもミニキッチンが欲しいなーなどと、既に浮足立っている。冷静に考えれば、このような抽選に当選するわけ無いのだが、当選した時の事を考えてしまうのである。まるで年末ジャンボ宝くじを購入しただけでつい、当選したら何に遣おうかなと考えてしまう事とよく似ている。捕らぬタヌキのなんたらというやつである。



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ラベル:山劇 新築
posted by サンタ at 17:11| Comment(0) | 本家山劇/となりの山劇 | 更新情報をチェックする
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