さて、貴方は今9階建ビルの8階のエレベーターのドアの前に立っていて、1階に降りる為エレベーターが来のを待っているとしようじゃないか。目の前には2基のエレベーターがある。向かって左側のエレベーターは現在4階にあって上昇中であり、右側のエレベーターは現在6階にあって下降中であるとしよう。
ココで問題。貴方は果たして、向かってどちら側のドアの前に立ってエレベーターがやって来るのを待つべきだろうか。
こういう場合、普通の人ならば上昇中である向かって左側のエレベーターがやって来ると信じるであろう。いや、常識的に考えると100%そうに違いない。そして間違いなくその期待に沿うべくエレベーターは動いていた筈だ。ところがである。そのエレベーターは時として次のような奇怪な行動をとる場合がある。待っている人たちの期待を一身に請け負った左側のエレベーターは、7階まで順調に上がって来たかと思いきやいきなり上昇を止め、突如として下向きに変わるのである。
「えーーーーーー、信じられない。!」
間もなくエレベーターがやって来るという期待は一瞬のうちに落胆に変わる。左側のエレベーターが下向きになると同時に先程から1階で停止していた右側のエレベーターが上向きとなり、次第に上がってくるではないか。先程我々の期待を冷酷に裏切った左側のエレベーターは5階まで降りたところで停止してしまっている。
さて、この場合はどうであろう。無事に右側のエレベーターが1階に降りようとしている我々を出迎えに来てくれると、普通 ならば考えるはずだ。いや、たいていの場合はそのまま右側のエレベーターがやって来るにちがいない。しかし、このエレベーターはそこで終わらない。順調に上がってきた右側のエレベーターは3階まで上ってきたと思ったら、我々をあざ笑うようにして突然停止してしまうのである。
「あーーーーーーーーー!」
一同の驚きの叫びをよそに、そこで初めて5階で停止していた左側のエレベーターが改めて上向きに変わり、めでたく我々はエレベーターの人になれるのである。やっとのことでエレベーターに乗り込んだ我々は呆れて声も出ない。お互いに顔を合わせてただニヤニヤと笑うだけである。このふざけた動きをするエレベーターの原因は、間違いなく運用プログラミングにある。想像するに効率がいい動き、そして待ち時間が最小になるような動きをするようにプログラムされているに違いない。実際、そのような動きをするとき「も」ある。
しかし悲しいかな、仮に本当にそのような効率的な動きをしたとしても、エレベーターを待つ人々の神経を逆なでする事が多い。さらに、各階の人達のボタンを押すタイミングによっては先程の例のようなふざけた事になるのだろう。最初の例の場合は、左側のエレベーターが素直にそのままやってきてくれた方がよほど自然だと感じるのだが。
このビルのエレベーターは効率良く運用しているのだろうというのともう一つ、左右のエレベーターの使用頻度を同等にして、どちらかのエレベーターが極端に老朽化するのを防いでいるのではないか、という姑息な手口が見え隠れするみたいだ。
今度は外からこのビルにやって来た時。エレベーターホールに入るとたまたまエレベーターがそこに来ていて、まさしく扉が閉まりかけていたとしよう。貴方はどのような行動をするだろうか。
この場合に多いのが急いで上向きのボタンを押す事である。上向きのボタンを押すことによって閉まりかていた扉が再び開き、めでたくエレベーターに乗ることができる、筈である。筈というのは、ココのエレベータは必ずしもユーザの期待通りの動きをしない場合があるということ。
それがどんな場合だというのは、例えばその隣のエレベーターも実は1階で停止していて、しかもドアが閉まっていた場合。このような場合は上向きのボタンを押しても、今まさに閉まりかけているドアが再び開くことは絶対に無いと思う。でも実際このケースでは閉まりかけた扉はそのまま閉まり、現在ドアが閉まって待機中の隣のエレベーターの扉が開くのである。何だか肩透かしをくらわされたようだ。
この場合、どちらの扉でも開けばいいだろ。という単純な話ではない。急いで上向きのボタンを押した人は、今閉まりかけているドアが再び開いて欲しいと期待しているのである。なのにかかわらず期待に反して隣のドアが開いた時は、
「裏切られた」
「おちょくられた」
そう感じるに違いない。
なお、このエレベーターは実在する。体験したい人は名古屋市中区新栄2丁目にある名古屋市景観賞を受賞した経歴を持つ白い建物を訪れるがよい。そこで貴方は心臓も凍りつくような爆笑の体験をする筈である。ちなみにそのエレベーターは「東芝」製だ。こんな面白い動きをプログラミングしたプログラマーの顔が見てみたい。表彰してやる。
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