前回同様今回も名古屋という街と文化を、キーワードを基にしてひもといてみようと思います。これで、名古屋人の傾向と対策がわかるかも?(かえって誤解したりして)
※注意 以下はJRタワービル建設以前に書いた文章です。文中には現在とは事情が違う表記がありますが、修正するのがめんどくさいので原文のまま掲載します。人間、些細な事を気にしてはいけません。
<冠婚葬祭>
一般的に名古屋地方の結婚式はハデだという。植木等が主演していたドラマになった程だから全国的にはかなり特異な部類に入るのだろう。しかし、あのドラマで面白おかしく紹介されていた結婚式騒動は間違っている。と、声を大にして否定出来ない所が悲しい。確かに中にはある。しかしそれは広い家に限られる。少なくとも名古屋市内ではあまり見かける事が出来なくなってきたのではないか。それでも、さすがに輿入れ家具の公開まではしないまでも、相変わらず菓子まきはする。
それにしたって本当に屋根からまく光景は近ごろ見かけない。現在では菓子を詰めた袋を持って近所に配る程度である。しかし、万が一菓子の内容が乏しいと、間違いなく恥をかく事になる。「あそこの家はケチくしゃぁでかんわ」となるのである。というように、配る菓子をケチってはいけないという大法則はいまだに存在する。
最近のやり方として、輿入れ家具を公開しなくなったのは間違いないが、その替わり、家具一式をまとめてトラックで運び入れるやり方は残っている。つまり、それ用の特別 なトラック、横面がガラス張りになっていて中が見えるトラック、しかも派手派手しく赤白の横幕を張り巡らせたトラックに家具その他一式を入れ、わざわざ嫁方の実家からスタートして嫁ぎ先へと運び込むのである。そのため、さまざまな家具を扱う家具屋や、電化製品一式を扱う電器屋は、特に婚礼一式に力を入れている。
結婚式自体は、年々規模が小さくなってきている傾向にはあるが、何時の時代も変わらないのは「引き出物」である。結婚する当人同士はあまり大きな引き出物を望まないものだが、親が許さない。親にとって結婚式とは、一生に数回だけ見栄を張ることを許されるスーパーステージなのである。筆者も記憶があるが、結婚式内のショールームにおいて、結婚式場の営業をも巻き込んだ、親子の引くに引けない壮絶なバトルロイヤルが日夜繰り広げられているのである。
私も数多くの結婚式に招かれたものだが、その中で見た最大の引き出物は「布団一式」であった。「毛布」というのもあった。重いものの例としては「テレビ」もあったし、高さ40センチ程の高さの重い箱があるから何かと思ったら、中身は巨大な壷であったりした。勘違いの無いようにあえて言うが、これらは親族用であって、友人用は若者向きの軽く小さい袋である。友人向けに布団一式などを持たせたら、翌日からつきあい方が変わる事間違いない。
この地方の結婚式もハデだが、葬式もまたハデである。しかしこれは葬儀社のパック内容がこのように仕向けているフシもある。一昨年亡くなった私の祖父の時もそうであった。葬儀社のパンフでは貧相に見えても、実際は予想以上に大掛かりなものだった。
その時の内情だが、さすがに仏様の前では皆神妙な顔をしていたが、これが一旦控室に入ると、そこは一変して同窓会会場となる。笑い声が絶えない宴会場と化す。もはや誰も泣いていない。これは祖父がそれ相応の大往生だったとか、交代看病など、親族としてやることはやったという満足感からきているのだが、それでもいざ仏様の前に出ると、やはり涙が出てくる。
他の家はどうか知らないが、ウチの家系は何かあるごとに記念撮影をしてしまう。例え葬式や法事といえども例外ではない。祭壇をバックにして親戚全員で記念撮影をする。葬式で記念撮影なんてと言われるかもしれないが、これには少し理由がある。特に祖父の場合、親類の方は皆高齢者ばかりである。遠方からわざわざいらしゃった方もいる。という事は、元気な顔を写すのは今しかないし、次に生きて会えないかもしれないのである。
時間が前後するが通夜の前日のこと、日取りの関係で全体に1日後ろにずらすことになり、通夜を明日の夜に行うとし、1日だけ余分に仏様が実家に滞在する事になった。祖父が息を引き取った夜に実家に集まった親類会議でそのような決断が下ると、今日ではなく明日の通夜に備えて皆帰ってしまった。それなら私も家が遠いから電車があるうちに帰ろうとしたのだが、
「おみゃあはんは明日の通夜に出んでもええで、一晩一人で線香番しとりゃあ。明日の朝になったら替わったるで。」
という祖母の一声で、居残りを命ぜられてしまった。孫頭のつらいところである。
いくらなんでも一人で心配なので、いやがる弟を巻き込んで、徹夜グッズと目覚まし時計を常備して仏様の横にゴロンと横になって線香番をしていた。最近では1晩くらいはもつ蚊取り線香状の線香が発売しているらしいが、叔父が購入してきたのは通常よりも少し長いだけの線香であった。それを見て、
「もう少し長いの無かったの?買い直してきてよ。」
と、文句を言ったが、
「まー、えーがね。一晩がんばってちょ。」
という叔父の一言でそのままうやむやにされてしまった。おかげで、眠いときは1本交代で目覚ましをかけるという長期戦になってしまった。そういった努力の結果 、朝に祖母が起きてくるまで線香の火が消えることなく無事、引き渡すことが出来たのである。
それにしても、仏様のすぐ横で寝たのは初めてだった。その寝顔は今にでも起きてきそうであったが、そっと手足を触ると、確かに冷たい。どう考えても、2度と起きてはくれないのである。合掌。
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